22.*****

1/3
前へ
/185ページ
次へ

22.*****

 急ぎ早に店から離れる。せめて、人通りの多い所へ早く····。 「先生、待ってよ。なんか急いでんの?」  芯が僕の手を引いて止める。立ち止まりたくないのだが、振り払うわけにもいかない。それに、いくら人通りがないからと言って、堂々と“先生”はいただけない。 「ねぇ芯、外で先生って呼ぶのは──」 「あれ〜? やーっぱお前だ」  背後から耳を劈く、聞き慣れた甘い声。身体が強ばり、瞬く間に自由を失う。頭から足先へと血の気が引き、焦点が定まらない。  けれど、それを芯に悟られてはいけない。僕は、震える唇を噛み締めて振り向いた。 「か、奏斗(かなと)··さん····」  震える声で、かつて愛したその名を呼ぶ。もう二度と、死んでも会いたくなかった男だ。 「久しぶりぃ。そのちっこいの、彼氏?」 「あ····えっと、その····」  恋人と言ってしまって良いのだろうか。反発した芯が、余計な事を言ってしまえば終わりだ。  奏斗さんは、1歩1歩ゆっくりと歩み寄ってくる。目の前まで来ると、少し前屈みになり僕の耳元で囁く。 「俺とは正反対じゃん。可愛い、お前みたい」  耳を孕ませる低い声。脳を溶かしてしまう濃い雄の匂い。頭が痺れ、考えが纏まらない。  ちらりと芯を見ると、唇を尖らせている。あぁ、やはり機嫌が悪い。最悪だ。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加