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22.*****
急ぎ早に店から離れる。せめて、人通りの多い所へ早く····。
「先生、待ってよ。なんか急いでんの?」
芯が僕の手を引いて止める。立ち止まりたくないのだが、振り払うわけにもいかない。それに、いくら人通りがないからと言って、堂々と“先生”はいただけない。
「ねぇ芯、外で先生って呼ぶのは──」
「あれ〜? やーっぱお前だ」
背後から耳を劈く、聞き慣れた甘い声。身体が強ばり、瞬く間に自由を失う。頭から足先へと血の気が引き、焦点が定まらない。
けれど、それを芯に悟られてはいけない。僕は、震える唇を噛み締めて振り向いた。
「か、奏斗··さん····」
震える声で、かつて愛したその名を呼ぶ。もう二度と、死んでも会いたくなかった男だ。
「久しぶりぃ。そのちっこいの、彼氏?」
「あ····えっと、その····」
恋人と言ってしまって良いのだろうか。反発した芯が、余計な事を言ってしまえば終わりだ。
奏斗さんは、1歩1歩ゆっくりと歩み寄ってくる。目の前まで来ると、少し前屈みになり僕の耳元で囁く。
「俺とは正反対じゃん。可愛い、お前みたい」
耳を孕ませる低い声。脳を溶かしてしまう濃い雄の匂い。頭が痺れ、考えが纏まらない。
ちらりと芯を見ると、唇を尖らせている。あぁ、やはり機嫌が悪い。最悪だ。
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