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永遠に終わらない夏
「なーなみん!」
放課後、校門をすこしすぎたところで親しげに呼び止めてきたのは同じクラスの山崎里帆だ。
グループが違うから、九月になった今もほとんど話したことはない。
毎日のようにブランドものの服を着ているし声も態度も大きいからよく知ってはいるけれど、過去をさかのぼっても掃除の時間くらいしか会話した記憶はなかった。
正直言って、すこしだけ苦手なタイプだ。
この距離感で話しかけられるなんて思ってもいない私は、驚きすぎて返事もできなかった。
「今帰り? 途中まで一緒に帰ろうよ」
「い、いいけど……途中ってどこまで? うちの方、結構大変だけど」
「丘の上でしょ。もちろん知ってるよ」
丘の上、というのは西町団地の通称だ。
この学校には団地住まいの児童が少なくないから、丘の上でだいたい通じる。
距離は遠くないけれど、長い坂を延々と上らなければならないから帰りは地獄だった。
一学期までは同じ団地に住む一つ下のノンちゃんと一緒に帰っていたけれど、夏休みからは塾に通うことになったらしく最近は一人だ。
ノンちゃんは一年の頃から成績も良く、中学受験を目指していると聞かされても驚きはなかった。
今でも昇降口で待ち合わせて校門までは一緒に歩くけれど、そこから先はお母さんの車に乗って去って行く彼女を見送る毎日だ。
話しかけられたのはちょうどその後だったから、私は余計に油断していた。
「こっちの道ってあんまり知らないから新鮮だなぁ」
「そういえば山崎さん家って、駅向こうじゃなかった?」
「りほちでいいよ」
「あー、うん。じゃあ、りほちって呼ぶね」
やっぱり苦手なタイプだ。
「実は今日……丘の方に用事があるんだよね。ここなんだけど、わかる?」
そう言われて見せられたのは、グラチャのマップ画面だ。
「地図だけじゃちょっとわかんないけど、坂のちょうど真ん中辺りだね。っていうか、りほちもやってたんだ。グラチャ」
「みんなやってるでしょ?」
「それはそうだけど……」
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