家庭訪問

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 32畳はあるだろう広い部屋の中央に、座敷机が一つ。  見事な山水の水墨画が描かれた(ふすま)に3方向を囲まれ、広いくせに妙な圧迫感があった。 「拓郎君はいつも困っている誰かのフォローをし、教室の掃除や花壇の手入れを率先して出来る、隅々まで目の行き届く素晴らしいお子さんですね」 「まぁ、おほほ。目だけは良いものですから」  美味いお菓子に愛想のよい美人の母親との話は、いつまで経っても飽きるものでは無い。  いつもなら子供部屋を見せてもらうのだが、今回俺は調子に乗って母親と話すことを優先していた。  まぁ、ねずみに出くわしそうなくらい古い家なので、あまりお宅探検に興味が無かったというのもあるが。 「おや、拓郎の先生かぇ。いつもお世話になっておるだ」  そういって縁側を手前から奥へ通り過ぎる爺さんや婆さんが、さっきから5人はいた。  通り過ぎるたびに「先生、この煎餅も食ってくれや」とお菓子を勧めてくれるのはありがたいが…顔も手も珍しいくらいシワシワのご老人達で、お菓子を受け取る際に一瞬躊躇してしまった。 「そういえば、拓郎君は?野球のクラブからまだ帰ってきていないのですか?」  俺は腕時計を確認しながら聞いた。  18時45分をさしていた。 「拓郎は……17時半まで先生をお待ちしておりましたが、クラブが始まるからと言って、先に行ってしまいましたの」  なんと、家庭訪問の後にクラブに行く予定だったのか。
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