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「先生、お茶のおかわりいかがですか」
「さぁさ、先生。こっちの饅頭も食べなさえ」
拓郎の母親と爺さん婆さんが、交互にお茶やお菓子を勧めてくれる。
気がつけば外は、月明かりもない真っ暗闇。
自転車のライトはちゃんと点灯するか記憶になく不安だが、1本道を5分も走れば大通り。その先は街灯が照らしてくれるだろう。
ただ、いつの間にか「明美さん、今日のお茶は良いの使っているね」「爺さん、この煎餅はアンタには硬すぎるよ」と幾人もの爺さんと婆さんが一緒の座敷机を囲み、寛ぎだした。
「拓郎は学校で上手いことやっとんのやな、えらいえらい」
「明美さん、今日の夕食は…よう肥えてそうだのぉ」
「爺さん、よだれ垂れてるでぇ。まだ早いからなぁ~」
爺さん婆さんたちが思い思いに喋り、ケタケタ笑う。
なんだ、なんだ。
俺の方をチラチラ見ながら笑う爺さんが不気味だ。
まるで…いや、そんなわけがないか。
俺はシャツの半袖から出ている、弾力の良い二の腕を隠すように手で覆う。
それにしても、あんなに沢山お菓子をご馳走になったのに…不思議と全く腹が膨れていない。
不気味な笑顔の年寄りに囲まれているせいか、なんとなく気味が悪くなってきた。
「あ…そろそろ、お暇させていただきましょうかね」
よいしょ、と座布団の上で立ち上がろうとした時、何かが俺のふくらはぎを抑えた。
「ずっと座っていていいよ」
机の下…いや、座布団の方から声がした。
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