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「ひぃっ!」俺は驚いて尻もちをついた。
「あれあれ、先生。足でもしびれなすったかえ?」爺さんが笑う。
「そんな慌てて帰らんでも、ゆっくりしていったらええね」と婆さんが笑う。
広いはずの座敷が更に狭く感じ、息苦しい。
寒くないはずなのに、手足が震える。
―――見えない空間に、何かが、いる。
何人もの爺さんがニタニタ笑う。
何人もの婆さんがケラケラ笑う。
「先生?もうお帰りですの?拓郎に送らせますので、もう少しゆっくりなさってくださいな」と母親が俺の側に寄り、腕に手を伸ばし引き止める。
―――冷たい。
母親の手の冷たさはまるで土のような冷たさだった。
「い、いや、大丈夫です!失礼いたします!」
俺はもつれる足で縁側を走り、転げるように玄関から飛び出た。
「自転車…自転車…」
震える手でヘルメットを被り、急いで自転車に飛び乗った。
一目散に自転車を漕いでその家を離れる。
弱弱しい光だが、一応自転車のライトは点くようだ。
そう、そして来た道をたどっていけば……。
あれ?来た道は、どこだ?
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