家庭訪問

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 目の前には道というより、山道のような細い道がいくつもの分岐になっていた。 「さっきはこんな道じゃなかったはずだが…」  俺は自転車を停め、スマホの位置情報を確認する。  ―――はぁ?圏外だと!?  今現在、この日本の山奥でもない離島でもない普通の居住区で、携帯の電波が届かないような場所なんてあるものなのか。  とにかく方角があっていそうな道を選び、自転車をかっ飛ばす。  しかし、走っても走っても山道のような暗闇が相変わらずついてくる。  いや、ところどころ炎のような小さな明かりが増えてきている気がする。 「ここは…どこなんだ!」  血の気が引く。  自転車を全速力で漕いだためか、息が上がってきた。  道を間違った?  引き返すか?  自転車を停め、後ろを振り向くが既に自分の来た道がわからない。  スマホも相変わらずの圏外表示。  誰かに電話をかけようにも、かからない。  6月の初旬ではあるが、寒い。  寒くて震えが襲ってくるのに大量の汗が噴き出してきた。  先ほど摂取したお茶が、毛穴という毛穴から噴き出してきている気分だ。 「まさか、俺、遭難したのか…?」  ふと、背後から視線を感じた。  いや、背後からだけでなく、四方八方から誰かに見られている気分だ。  木々の囀りが誰かの笑い声に聞こえる。  どこかで流れる水音が、何かが地面を這って近づいてくる音に聞こえる。  とうとう身動き一つ取れなくなってしまった。 「誰か……誰か助けてくれ……!」  ふと、遠くで何かを呼ぶような声がした。
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