家庭訪問

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「せんせーい!いたいた。なんで待っていてくれなかったんですか」  暗闇から野球帽をかぶった拓郎が、手を振ってこちらに駆けてきた。 「た、拓郎!」安堵からか、涙が一気に流れ出た。 「ダメじゃないですか、先生。母ちゃんが僕の帰りを待ってろって言っていたでしょう?」  確かに言っていた。  俺は両腕の半袖で涙を拭う。 「さ、こっちですよ、先生」  拓郎は自転車を押す俺の横を歩き出した。 「夜になると迷い込んでしまうから、クラブに行きがてら先生を送るつもりだったのに、先生なかなか来ないから…」 「あ、あぁ、すまん。待っていてくれたんだな」 「そうだよ。もう来ないのかと思ったけど、気になってクラブをわざわざ抜けてきたんだよ」 「ありがとう…助かったよ」  拓郎と一緒に歩くと、5分もかからないうちに大通りに出た。 「じゃあ先生、ここからは大丈夫だね」  拓郎は山道の端に立ち、手を振る。  俺はほっと気が緩んだ。  そのせいか寒いと思っていたのに、急に寒さを感じなくなった。 「ありがとう。じゃあ、拓郎も気を付けて帰れよ。また明日、学校でな」 「うん」  自転車にまたがる俺を見上げた拓郎の帽子のつばの下から、なにやら光るものがあった。 「拓郎、おでこになにかついているぞ」 「え?本当?」そう言って拓郎は帽子を脱いだ。  ―――えっ?目!?  拓郎は「あ、いけね」とすぐに帽子を被りなおしたが、俺は拓郎のおでこには大きな3つ目の目があったのを見てしまっていた。  拓郎は俺の表情を確認すると、ぺろっと舌を出し、 「じゃあね、先生。これからは時間をちゃんと守ってね」といって暗闇に向かって走り出した。  6月初旬だというのに、ねっとりとした生暖かい風が首筋を撫でて行った。
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