天職、失いました。

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 青い髪の青年がオレに剣闘場までの道を訊ねた理由は、確かめなくたってわかる。オレの首には、赤い色の金属板がついた防具が巻いてあるからだ。  命がけの闘いをうたっているけれど本当に積極的に殺していい道理もなく、首を守る防具だけは参加にあたって必ず身に着けるよう義務付けられている。何度も試合に参加して勝ち星が百を数えた剣闘士には、通称「赤首」と呼ばれる特別製が褒章として与えられる。その赤首を見て、剣闘場の場所を知ってるって判断したんだろう。  オレは彼に事情を話せないまま、無言で歩き出す。そのまま振り返らず進み続けると、どうやら青年はオレの後についてくるみたいだった。 「この掲示、あなたですよね? ……テリア・ランセルさん? 傷なしランセル……素早い身のこなしで、自分自身も対戦相手も傷ひとつつけずに常勝する名剣闘士……へぇー、すごいんですね~」  どの剣闘士が勝つかによって賭け金が交わされるから、その予想のため掲示板には剣闘士の情報が貼られている。これまた赤首になった者だけの特典として、絵描きが描いたオレの似顔絵が貼られている……剣闘場が役目を終えて数か月、すっかり埃をかぶっていて虚しさを際立たせていた。  試合中の顔を見て描かれたというそれは、オレにとってはちっともありがたくない。普段のオレはこんなキリッとした顔はしていないのだから、見ていても馴染みがないというか、嘘っぽくて嫌になる。剣闘場がなくなった今、こんな顔は二度と出来ないだろうな。 「道案内していただいて、ありがとうございました。せっかくだからお礼させてください」  すっかり静かになってしまった剣闘場の入り口に、入れたての飲み物を売ってくれる出店がある。売上だって以前とは段違いだろうに、それでも青年のような観光客だっているだろうからと商売を続けているらしい。酒類もあるがオレはそういうものにあまり関心がないから、熱々のコーヒーを淹れてもらうことになった。ふたり分。  グランティスという国は人工芝をそこいらじゅうに育てていて、オレ達はそこへ腰を下ろす。 「いやぁ~、本物の芝生って気持ちいいですね~。あ、今更ですけどボク、ノアっていうんです」  今更といえば……ノアはどうして、何ひとつ言わないオレの後に続いて歩き出したんだろう。 「あなたの表情見てたら、わかりますよ。何も言わなくても。この人はきっと、ボクの訊ねた場所まで連れて行ってくれる気なんだろうな~って」
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