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さっきから、何度もこんな感覚を味わっている。ノアはまるで、オレが考えていることを……心を読んでいるみたいに、的確に言葉を返してくる。読心の魔法でも使っているのか? いや、この世界から魔力はなくなったのだから、もうそんな魔法は使えないはずだ。
「ボクの母もほとんど喋ってくれない人だったから、慣れてるんですよ。それにあなたは母とは違って、顔を見ていたら何を言いたいのかなんとな~くわかっちゃう」
感情が、顔に表れている? そんなようなことを、オレのふたりの弟達がよく言ってた。上の兄達は何も話さないオレを爪弾きにしていたけど、弟達だけはオレに親密にしてくれてたっけ。
「例えば……あなたは一流の剣闘士だったみたいだけど、本当は戦うのが好きじゃなかったんじゃないですか? とっても優しい目をしているから、そうなんじゃないかな~と思って」
これもまた、ノアの言う通りだった。
オレは戦うのなんか好きじゃない。口がきけなくて、他の仕事が勤まらなくて。勝ちさえすれば誰に憚ることなく遠慮なく、金銭を受け取ることが出来るから。それで剣闘士の道を選んだ……逆に言えば、それ以外の道を選びようがなかった。
だけど、誰かを守るためでもない、ただ金を稼ぐためだけに闘いの技術を磨く日々なんて……虚しかった。
「でも、他に出来ることが思いつかなくて今、先行きが見えなくて困ってるのかな?」
う~ん。それは困りますよね~、って、ノアも腕を組んで考え込んでしまう。そこで、思う。そういえばノアって、普段、どんなことして生きてる人なんだろう。
「ボクですか? 実は隣国のクラシニア王家に知り合いがいまして。外に出られない彼らに代わって会わなきゃいけない人達がいるもんで、世界中旅してまわってるんですよ」
この国と違って、隣国の王族は生まれてから死ぬまで、国に仕えるため王宮から出られない。そんな話を聞いたなぁ。統一政府を作ろうって昨今、時代遅れだと思うんだけど。要するにノアは、隠密の外交官みたいなものなのか。
次にノアが向かう国はどこなんだろう、って考えようとして。ふと、鼻の奥がつんとしてくるのを感じる。そこで、こみ上げてくる感情をオレは自覚した。
オレはいつも、ひとりだった。故郷から出た道も、自宅から剣闘場まで歩く道も、いつでもひとり。
ずっと、思ってた。誰かと一緒に、同じ道を歩きたいって。だけど、口をきけない自分は、その「誰か」に何も返せない。自分から何も与えられないくせに誰かと一緒にいたいなんてそんな我儘、許されるはずがないって……。
そんなオレの顔に、何を……どんな感情を見たんだろうか。ノアは信じられないようなことを言いだした。
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