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ふと、思いついて、港町の武器屋を訪ねてみる。その店も近い内に閉店を余儀なくされているとのことで、必要なものは今の内に買っておいてくれと店主はぼやく。
「闘うためじゃなくて、大道芸に使うかもしれないって? だったらねぇ、道端で見せる場合は模造刃を使わなきゃいかん決まりがあるよ。本物の刃で同じこと出来る自信があってもね、万が一、客にケガさせたら大変だから。それに、どんな道だって誰か個人の好き勝手に出来るもんじゃない。芸をするなら毎回、役所に届けて使用許可を貰わなきゃいかんからね?」
同じ目的で店へ来る客も多いのだろうか。店主はこの道に詳しいらしく、色々とためになる助言をくれた。
とりあえず、模造刃のサーベル一本とナイフを数本買って、公園へ行った。すぐ近くに人のいない場所を選んでさっそく試すことにする。
「うわぁ~……ナイフならわかるけど、そんなおっきい剣まで投げて受け取れるの? テラはすごいな~」
物を投げるのも、投げたものを受け取るのも、子供の頃から得意だった。というか、口をきけない代わりってんじゃないだろうけど、体を動かすのだけは自信があった。だからこそ剣闘士になろうなんて思ったわけだし。
「でも、すごいだけじゃお金を貰うのは難しいよね。色んな人の芸を見て、どんなことをすればいいのか勉強してみるっていうのはどうかなぁ」
ノアの提案で、オレ達は大道芸の祭典が行われる町へ赴いた。毎月に一度、それぞれ異なる祭りを開催するということで有名な観光地、アルディア村。その、十一月の祭事がまさに大道芸だったんだ。
ノアもアルディア村に来たのは初めてだったそうだけど、入口について、しばらく歩いていたら、いつの間にか涙ぐんでいた。ノアがそんな感情を見せたのは初めてで、心配になる。それなのに、オレは相変わらずノアに何もしてやれなくて、……切なさよりも、自分の不甲斐なさがただ、悔しいと思う。
「……ごめん、ボクはここに来るの初めてだけど。大切な人の故郷がここだって、聞いていたからさ。こんなに賑やかで、楽しそうな場所だったんだね」
めそめそしないでちゃんと味わわなきゃね。と、ちょっとだけ滲んだ目でノアは作り笑いをした。
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