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アルディア村は森の中を貫く大きな一本道を、両側に立ち並ぶ民家が挟んでいる。あまりよそでは見ない、特徴的な集落だ。その道のあちらこちらで、今日は様々な大道芸人がそれぞれの誇る芸を披露して、立ち寄る人々を楽しませている。笑顔で満ち溢れている。
そんな人々のただ中で、ノアは楽しさだけでなく、ほんの少しの悲しさを胸の奥底でくすぶらせながら、喧騒を眺めていた。
オレは、何度も……いや、毎日、いつもいつも。ノアがオレの顔を見て話してくれるだけでこんなにも救われてるっていうのに。ノアが悲しそうなのに相変わらず、何の助けにもなれていない。
笑わせたいなぁ。言葉が使えなくても。こんな風に、悲しんでいる人がいる時に。
今、ここで、芸を披露してたくさんの人を笑わせている大道芸人の人達みたいに。オレが見せる何かを見て誰かが笑ってくれるように。そんなことが出来るように、オレもなりたい。そう思った。
年に一度とはいえ大道芸人が一堂に会するアルディア村では、芸の道具を専門に売っている店が何軒もある。ノアと一緒にあちこち旅をしてきたけど、こんなに品ぞろえが充実している場所はそんなにないだろう。
折り畳み式の一輪車や分解できる大きな輪っか。それに乗ったり腰で回しながら巨大な剣を投げて受け取ったりしたら見応えあるんじゃないか? とりあえず、買っておくことにした。荷物が増えたので車輪と伸縮可能の持ち手が着いた籠型の鞄を買う。
今までは荷物の少ない気楽な旅だったのに、一気に持ち運ぶものが増えちゃったなぁ。それを引っ張りながら振り返ると、土の地面には車輪の痕が残り、オレ達の歩く後にふた筋の小さな道を刻んでいた。
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