prologue

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 この場所に来るのは何年ぶりだろう――。  最後に訪れたのは俺がまだ中学に通う頃だったから、もう20年以上前になるのか。  あの頃は最寄り駅まで迎えに来てくれた祖父が運転する車でここまで来ていたから、いざ自分の車で向かうとなると果たして目的の場所に到着できるのかいささか不安ではあったのだが、今や当然のように車内に備え付けられている文明の利器による道案内と、思っていたよりも鮮明に自分の中に残っていた記憶とに助けられ、それらしい場所に辿り着くことが出来た。  幼い頃よく連れて来てもらった母親の故郷。  祖父母が暮らしていた山奥の集落は、大手リゾート会社の手が入り、こ洒落た空間へと様変わりしたエリアと、過疎化が進み空き家が物悲しく残された場所との二極化が進んでいた。  母の生まれ育った家は現在、ちょうどその二つの環境を分かつ境いに位置する形になったみたいだ。  その古びた家にはもう誰も住んではいないのだけれど。  緑に囲まれた山深いこの場所はいつも、自分の住む街より何度か気温が低いような気がしていた。  幼少時代の記憶を振り返りながら今も同じことを感じている。  綺麗に色付く木立を眺めつつ車を降りると、懐かしい森の声と冷たく澄んだ空気が、疲弊した心を包んでくれた。
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