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 妻が時々買ってきていた有名店のスイーツと違って大したクオリティではないのに、なぜ駄菓子はあんなに旨く感じるのだろうと思う。  まだ幼かったあの頃、この場所にそれを買いに来ることが本当に楽しみだった。  ――それともう一つ。  店の裏にあった大樹によじ登るのが大好きだった。  四方に枝分かれした大きな幹はさながら天然のアスレチックのようで、今回はどのルートを攻略しようか、次はどの枝までいけるだろうと、毎回チャレンジしていた覚えがある。  でも一番最初の足場になる枝の位置が高くて直接登るには届かず、まず駄菓子屋の塀を足掛かりにしていた。  あの日も新規のルートを開拓せんと意気込みながら塀をよじ登って、いざ枝に跳び移ろうとした瞬間低い男の声に呼び止められた。 「何をしている」  ここ商売やっていけてんのかなと思うくらい客を見かけない店だったので、それ以上に人気(ひとけ)のない店裏のこの場所でまさか誰かに声を掛けられるとは思ってもみなかった為、びっくりして踏み出そうとした足を中途半端に止めてしまった。 「わッッ!!」  そのままバランスを崩した俺は果たして地面に落下し、さほど高さはないとはいえ変な体勢で転んでしまって、Tシャツ一枚の腕に大きな擦り傷を作る結果となった。  「おいっ、大丈夫か!?」  駆け寄って来たのはたくましい胸と長い脚をした大柄の男で、助け起こそうと伸ばした腕はよく日に焼けていた。  ヒリヒリと痛む場所ににじむ血を見つけると、その男は俺の脇にしゃがんで腰に挟んでいた手ぬぐいで傷口を包むように縛った。  思い返せば “今の時代に手ぬぐいかよ” って突っ込みたくなるとこだけど、あの頃手ぬぐいなんて見たことがなかった俺は、タオルとは違うさらりとした感触と淡いクリーム色に染められたその布が珍しくて、覆われていく傷口をジッと見ていた気がする。  そして無骨な手でそれを巻いていく男の事も同じようにジッと見ていた。  腕と同じくらい日焼けした顔は、今学校で流行っている漫画の敵役みたいだ。  何て名前だったかな。眉毛とあごのラインが男らしくて、硬そうな短髪と無精ヒゲがワイルドなヤバイやつ。  ――俺が一番好きなキャラクターだった。
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