彼女の思惑?

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「ちょっと休憩するか?」 クライアントからの帰り道。 同僚の良伊(らい)は、目の前のカフェに目を向ける。 「そうだな」 春の日差しと、外回りの解放感。 社会人としてもちょっと余裕が出てきた27歳。 俺、知樹(ともき)は、同僚の提案に、 サクっと乗っかる。 通りを横切って、店の前に来た時、 「らい?」 と、彼を呼び止める声が聞こえた。 声のほうに振り向くと、 路地から紺のパンツスーツの女性が、 こちらをうかがっているのが見えた。 俺らが振り向くと、 「あ、やっぱりらいだ。」 とその女子は、笑顔になった。 色気には欠けるが、かわいらしい笑顔の女性だ。 「いおり」 そんな彼女に、らいも笑って手を振った。 彼女は、嬉しそうに小走りで近ずいてくる。 「何?仕事?」 彼女と違って、ラフな服装の俺らに、 ちゃんがたずねてくる。 「追うよ。クライアントの帰り」 な、と突然俺を巻き込む。 「…お、おう」 そんな俺の顔を見て、 「あぁわりー。 彼女、俺の幼馴染の君津 衣織(きみつ いおり)」 そう紹介してくれる。 「いおり、こいつは同期の田元 知樹(たもと ともき)」 こいつってなんだ、と思いながらも、 俺は営業よろしく、にっこり笑顔を作る。 「ともき君…。初めまして」 「初めまして」 いきなり付けで呼ばれて、 ちょっとドキッとしたけど、 いやな感じはしない。 急に距離を詰めても相手を不快にさせない、 それはきっと彼女のスペックなんだろう。 俺も悪い気はしない。 「いおりも外回り?」 らいがそう聞いたところで、 「君津さん、」 と同じ路地から、彼女と同じように、 スーツ姿の男性が現れた。 「あ、ごめん吉永君」 吉永と呼ばれたその男は、 一瞬で俺たちを値踏みするように見た。 うわ、感じわる。 それでも俺らは社会人。 お互いに軽く頭を下げる。 「急にいなくならないで下いね」 吉永さんは、とても柔らかく優しい声で、 いおりちゃんに諭した。 「ごめんなさい、ちょっと友達を見つけちゃって」 明らかに悪いと思っていない感じで、 いおりちゃんは詫びを入れる。 「吉永君、こちら幼馴染の宗田 良伊(ソウダ ライ) とその同僚の田元 知樹くん」 改めて紹介されて、あいさつしなおす。 「こちらは、私の同僚の吉永 泰斗(ヨシナガ タイト)くん」 どうも、と彼も頭を下げなおす。 「らいたちもう帰り?」 「おう、その前に一息」 らいは、そう言ってカフェを指差す。 「ちょうどいいじゃん」 いおりちゃんはむちゃくちゃ笑顔になる。 「私たちも会社戻る前に、 一休みしようと思ってたんだよね」 「だよな」 「もし、知樹君が迷惑じゃなかったら、 ご一緒してもいい?」 「全然問題ないよ」 俺はそう答えてから、 ちらっと吉永さんを見る。 いや、からさまに不服そうだよね。 「吉永さんは大丈夫ですか?」 どんな反応するんだろう? 「はい、私は構いませんよ」 だよね。 これが大人の常識的な対応だよね。 ちょっと微妙な空気ではあるが、 俺たちは4人でカフェに入った。
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