魔王

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魔王

 魔界の城へ戻った魔王は静かにワイングラスを傾けた。 「……」  ビーナスも複雑な顔で食事を取っていた。 「ぬうゥッ、そうじゃァビーナス」 「はァ、なんだよ。ジジー?」 「ジジーではない。パパと呼べ。パパと」 「知るかよ。なにがパパだ」  ビーナスは、ふて腐れてそっぽを向いた。 「吾輩は決めたぞ」 「え、なんだよ。懲りずにまた芸人になるって言うのか?」 「いや、芸人になるのは中止じゃァ」 「あ、そう。じゃァ何やるんだよ?」 「吾輩は、これより最強のプロレスラーになるんじゃァ」 「な、なにィーーーッ。プロレスラー?」 「よかろう。じゃァ、ビーナスも掛け声を一緒に!」 「か、掛け声って、マジか……?」 「いくぞォ。いち、にぃの、サンダー」  魔王は景気よく腕を突き上げた。  閃光が疾走(はし)り抜け、耳をつんざくような雷鳴が轟いた。 「それ、やりたいだけだろう……」  呆れた顔でビーナスは魔王を見つめた。  
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