魔王&ビーナス

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魔王&ビーナス

「なんでも叶えてやろう。なにをして欲しいんじゃァ。言ってみろ。お菓子か。ビーナス?」 「はァ、お菓子なんかいるかァ。じゃァ今日こそ言わせてもらうが、ビーナスって呼ばれて、どれほど私が恥ずかしい思いをしているのか。知ってるのか?」 「カッカカッ、吾輩の辞書には『恥』などという単語(コトバ)などない」 「なんだよ。そりゃァ。ジジーだからだろう。そりゃァ」 「ジジーではない。吾輩はパパじゃァ」 「知るかよ。私はビーナスって呼ばれて死ぬほど恥ずかしいんだよ」  頬を赤くして照れた。 「なぜじゃァ。美しい女神と書いて『美女神(ビーナス)』じゃァ。いま流行(はや)りのキラキラネームじゃァ。文句はあるまい」 「古ゥ。なにが、いま流行(はや)りだ。文句は大アリだよ。いつの時代だよ。平成か。もうキラキラネームなんか、流行遅れだよ」 「カッカカカ、むしろ時代の先取りじゃァ。良いか。やがて一周回って、時代はビーナスに追いついて来るんじゃァ」 「来るかよ。ビーナスなんて。なんだよ。一周回ってって。流行のお下がり感、満載だろう」 「ビーナスさえ女芸人として売れれば、来年あたり、親が付けたい子供の名前でトップになるんじゃァ!」 「なるかァ。つけられた子供が悲惨だろ。だいいちなんで女芸人として売れなきゃならないんだよ」 「なんでじゃァ。ビーナスは可愛らしくてキュートな名前じゃろう?」 「いいか。ビーナスなんて名前が学校で知れ渡ってみろよ。他のクラスや学年の違うヤツらが見学に来て、『ビーナスってヤツがいるらしいな。どいつだよ?』って訊かれるだろう?」 「カッカカカ、そしたら立ち上がって、『ビーナスは私だけど、文句がお有り?』って、胸を張って言ってやれば良かろう」 「言えるかァ。どんだけハードルを上げるんだよ」 「ぬうゥ、ハードル?」 「そうだよ。ハードルの上げ過ぎだろォ」
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