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吾輩は小学生になる
「いいよ。だったら中学へ進学したら私はひとり暮らしを始めるから」
「はァ、なにィ、ひとり暮らしだとォ?」
「そうよ。すっかり私も大人でしょ」
ビーナスはモデルのようにターンしてポーズを決めた。
「ど、どッ、どこが大人じゃァ。ビーナスはずゥゥーーーーっと、子供のまんまじゃァ。吾輩の目が黒いうちはひとり暮らしなど許さん。あと二万年後にしろォ!」
「はァ、なんだよ。そりゃァ、どんだけ後なんだよ。二万年後なんて。みんな死んでるじゃん!」
「絶対に許さん。どうしてもひとり暮らしをしたいと言うなら、吾輩にも考えがある」
「な、なんだよ。考えってェッ?」
眉をひそめて聞き返した。
「ビーナスが、ひとり暮らしするかわりに吾輩は小学生になってやろう」
「え、小学生って、なに言ってるの。おバカさんなの?」
「ビーナスがひとり暮らしを始めるなら吾輩は小学生になってビーナスのクラスメイトになるんじゃァ!」
「な、なんだそりゃァ……。そんなこと出来るワケがないだろう」
「カッカカッ、この吾輩に出来ないことなど何ひとつないんじゃ!」
「いやいや、だからって小学生になるなんてムチャ言うなよ」
「ちょうど吾輩は戦後の混乱期で、すっかり小学校を卒業するのを忘れていたのじゃ」
「え、戦後の混乱って、いつの?」
「応仁の乱に決まっておる」
「いやいや、全然、決まってねえェよ。応仁の乱からって、ひとよむなしい応仁の乱で。一四六七年だぞ。どんだけ昔から忘れてんだよ」
「ご存知の通り、吾輩は手に負えないほどのうっかりさんなのじゃァ!」
「なんだよ。そりゃァ。どんだけ手に負えないんだよ。それから言うに事欠いて、自分でうっかりさんって言うなァ!」
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