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子アナグマのシベルは、母アナグマと一緒に煌々と輝く満月に照らされた獣道を歩き続けた。
「シベル坊や・・・」
「なあに?母さん?」
「私の子供の中で、あんたシベル坊やだけが生き残って本当に良かったと思うわ。」
母アナグマはそう言って、子アナグマのシベルを優しい目で見詰めた。
「坊や、この森は人間達が入ってきてどんどん棲みづらくなってきたと思うの。
人間って本当に身勝手だから、私達を厄介者にして私達をこの世から消そうとしてる事に、私は哀しくてしょうがないの・・・」
母アナグマはそこまで言うと深いため息をついて、子アナグマのシベルに優しい声で言い聞かせた。
「ねぇ、シベル坊や。」
「なあに?母さん?」
「この『道』は何処へ続いてる?」
「えっ・・・と・・・野菜畑!!」
「この獣『道』じゃなくて、シベル坊やの『道』の事よ。」
「僕の『道』・・・?」
子アナグマのシベルは首を傾げた。
「それはね、教えてあげる。そのシベル坊やの『道』は幸せへ続いてるのよ。」
「幸せ・・・?」
「ええ、そうよ。『幸せ』。
でもね。その『幸せ』への道は険しくて辛いけど、それをシベル坊やが勇気をもって乗り越えて行けば必ず『幸せ』に到達出来るわ。きっと。」
母アナグマはそこまで言うと、子アナグマのシベルを立ち止らせた。
「シベル坊や。これから、私は君にその『勇気』をあげるから。」
「ゆうき?」
また首を傾げた子アナグマのシベルは、何か悟ったような母の声を聞いた。
「シベル坊や。もう独りでやっていけるわね?」
「えっ・・・?!」
突然母アナグマに、事実上の『子別れ』を告げられた子アナグマのシベルは激しく困惑した。
「でも・・・僕は・・・」
「シベル坊や!!今さっき言ったでしょ!!あんたはあんたの『道』を行きなさい!!もう私に甘える『道』はもう終わったのよ!!」
ドカッ!!
いきなり母アナグマは、子アナグマのシベルに突進して押し倒した。
「いてててて・・・どうしたんだよ!!母さん!!」
ムクッと起き上がった子アナグマのシベルが見渡すと既に愛する母アナグマの姿は居なくなっていた。
「母さん・・・」
満月の月明かりに照らされた獣道の道端で立ちすくむ子アナグマのシベルは、万感の思いに感極まって目から一筋の涙が溢れた。
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