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11話 ヒス女史の命令
ここはとある地方の農村で、魔物に毎晩襲われるという通報があった村。王国の要請で王太子とお嬢の上級魔法師が派遣され、中級クラスのガレスを含む6人も同行している。つまり、ここが課外授業の場所であった。
いやいや、授業じゃないじゃん。思いっきり実践だよ! あぁ、今頃初級クラスは美しい海と自然豊かな山々に囲まれた島で楽しく合宿してるんだろうなぁ。ボートに乗ったりして……羨ましい。
「お前らに魔法ステッキを渡す。さっさと受け取れ!」
中級クラスの担任が、一人ひとりに杖のようなものを手渡して回っていた。最後は面倒くさくなったのか投げつけている。彼女は短気で、すぐに怒るという噂のある先生だ。アレク先生とは大違いで、さらにあたしのテンションは下がりっぱなしだった。
イヴォンヌ・マクスウェル、通称ヒス女史。長身で引き締まった体型に真っ赤な髪を伸ばし、メガネをかけている。その奥には鋭い眼光が宿っていた。
隣にはクールな王太子と、恥ずかしそうにクネクネしているお嬢が寄り添って立っていて、村の山々を見つめている。
「聞け。そのステッキはお前たち次第で自在に変化する。イメージしてみろ。相手を攻撃するための最強の武器に変えたり、自分を守るための最適な盾に変えてみろ!」
と、言われても……ただの棒切れなんだけど。すると、「えい!」と周りの生徒が次々と杖を武器に変えていく。鋭い刃先の魔法剣や光る金属のようなものに変化する様子に、驚きと感動を覚えた。
「アリアナ、リンダも試してみろよ」
ガレスが声をかけてきた。彼は騎士らしく、大きな魔法剣を手に持っている。おそらく、王太子の護衛として元々所持していたと思う。
「あの、ええと……」と、あたしは躊躇した。すると、リンダは小さなブーメランのような武器に変化させている。「すごっ!」と思いながらも、この場で杖のままはあたしだけだ。
「おい、早くやれ! いつ魔物が現れてもおかしくないんだぞ!」
ヒス女史から厳しく叱られる。あたしはひるんで「え、えっと、何か武器になれ~」と唱えてみた。
──かちん。
「ひぇっ?」
なんと、杖が石の棒に変化してしまった。「なんであたしだけこんなにつまらない武器なの?」とがっかりしてしまう。同時に周りからも失笑された。
「なるほど……。ま、いいか。よーく聞け、あの山を見ろ。一箇所崩れているだろう。そこが魔物の巣になっている。奴らはこの村の農作物を荒らすだけでなく、人にも危害を加える。住民は避難してるが、そこに住むことはできない。我々の任務は、魔物を退治して、この村を復興させることだ。理解したか!」
任務って、思っきり言ってるじゃん。これは課外授業じゃない。ったく、説明会では集合時間と持ち物のことだけで、全然詳細な説明なかったし~。
「アリアナ、何か音が聞こえるよ!」とリンダが緊迫した声で訴えた。「──ん?」とあたしも耳を澄ませた。小さな鳴き声のようなものと地響きが耳に伝わる。
「いよいよ来たぞ! 戦闘体制を整えろ!」
ヒス女史が厳しい口調で叫んだ。輪っかのような物体がたくさん回転しながら迫ってくる。それらは蛇のような生き物で、自分たちの尾を噛んで、ぐるぐると回っているのだ。
「ウロボロスか。中級にはちょうどいい相手だ。ガレス、手本を見せてやれ」
ヒス女史の命令に従い、「かしこまりました」とガレスが前に出た。あたしは思わず、皆の後ろに隠れる。
だって、ウロボロスの全身には鱗のような物体があって、猛毒を撒き散らしてるってリンダが言うんだもん! こわいよっ!
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