13話 石獣ガーゴイル

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13話 石獣ガーゴイル

「アリアナ様、危険ですよ? 一応、警告しておきますね」  そう言い残したお嬢は、焼け野原と化した草原を左右に瞬間移動しながら、ガーゴイルに立ち向かう。そして、上空高く舞い上がった。 「蒼穹(そうきゅう)に舞う流星たちよ、神からの祝福を与えなさい。召喚魔法、メテオ!」  お嬢の祈りの美しさとは対照的に、青空は一瞬で夜空に変わり、闇を貫くように流星たちが飛び交かった。それらの流れ星は、次第に大きくなり、軌道が不自然なものに変わっていく。そして、突然、燃え盛る火球が空から降り注ぎ、大地を揺るがす轟音が鳴り響いた。 「隕石を呼んだのか!」「ガーゴイルを直撃したぞ!」と、お嬢を目で追っていた生徒たちが、驚きと歓喜が入り乱れた感情を爆発させた。 「ふ~ん。この程度の魔物に大袈裟ね。あ、そうか、王太子が見てるから張り切ってるのね! でも、これで終わりじゃないわよ」  周囲は灰色の煙で包まれ、燃え盛る炎が目の前に広がる。そして程なく、炎が収まった。 ──だが、地響きのような唸り声をあげながら石の塊が姿を現す。「まだ倒れていない!」と、ガレスの大声が聞こえてきた。 「致命傷を与えたわけではないですからね」  スタッと地面に降り立ったお嬢は微笑みながらガーゴイルに背を向ける。 「では、ここからどうする? 火球の熱で奴はしばらく動けまい。ん、そうだな……ガレスよ、仕留めてこい!」  ヒス女史が顎をしゃくって指示を出した。 「了解!」  ガレスは赤い瞳を光らせた魔物に向かって走り出す。焼け野原に立ち込める煙を掻き分けながら、宙に舞った彼は渾身の力で剣を振り下ろす。しかし、その剣はまるで鋼鉄のように硬い石に弾かれてしまった。 「なにっ!?」と納得のいかない声をあげるガレスに、「そこまで!」と、ヒス女史が制す。 「闇雲に剣を振り下ろすのではなく戦略を考えろ! この石の魔物を倒すには、二つしか方法がない。誰かわかるか?」 「えっと、はい! 転換魔法です!」  リンダが真っ先に手を挙げて答えた。 「ふむ、そうだな。物質の性質を変化させる転換魔法で正解だ。しかし、それを使える魔法師はセシリアくらいだろう。ここにはお前らしかいないぞ。さあ、どうする?」  その問いに誰も答えられない。ヒス女史は笑みを浮かべながら言い放った。 「最初からお前が答えを知っていたんだろう?  アリアナ」  ガーゴイルに対峙したまま動かないあたしに、生徒たちが注目した。 「……あ、そうか! 石棒だ、アリアナの武器ですね!」と、リンダがメガネを拭きながら回答する。 「正解だ。あれはただの石棒ではなく、炭化ケイ素を凝縮した隕石でできている。魔物の身体など簡単に打ち砕くほどの硬度がある」 「隕石か! なるほど、そこにヒントがあったんだ。アリアナ、ぶちのめせー!」  ガレスが何か叫んでる。あれ? なんでこんな状況になってるの? 目の前に巨大な石の化け物が現れてるし。 「グゥルルル……」 「……」  ひぃぃっ! 怖すぎる! ちょっと、金髪はどこに行ったの!? こんなところに立たせておいて、最後まで面倒見なさいよ! 「アリアナ、石棒で叩けば倒せるから!」  石棒? これで? ほんまかいな~? と、余裕かましてる場合ではない! 「早くしないと回復するぞ!」  え、ええい、もうわかったわよ! これで叩けばいいのね! 怖いけどやるしかない。動かないうちに叩いてさっさと逃げよ!  あたしはテケテケっと魔物に向かい、石棒を振り回してスネのあたりを「コンコンコン」と叩いた。 「おいおい、そんなんで……?」   すると、ミシミシと音を立てながら石獣ガーゴイルが壊れていくと同時に、石が雪崩落ち始めた。 「えっ!? あああっ! いやあーーっ!」  あたしは悲鳴をあげながら必死に逃げまくった。
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