14話 王太子のお兄様

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14話 王太子のお兄様

「ほんっと散々な目にあったわ」  あたしは膝小僧をさすり、焚き火に近づいた。崩れ落ちる石塊から逃げる際、コケてしまったのだ。しかし、あたしのおかげ?で魔物を退治した課外授業の初日は終わり、リンダと大きなテントを張って一息ついている。 「キャンプファイヤーなんて、ようやく課外授業らしくなったわね! アリアナ」 「うん。明日からは村の復興だから、もう怖い目に遭わなくて済むし、お気楽だよ~、うふふ」  夕飯はカレーとバーベキューのようだ。中級クラスの生徒たちは野菜を切ったりお肉を串刺ししたりして、ワイワイキャッキャッと楽しんでいる。しかし、イヴォンヌ先生をはじめ、王太子やお嬢、そして護衛のガレスはこの中にいない。彼らは近くの役所で執事や侍女、それに専用シェフを呼んで、寛いでいるようだ。すごい格差があると思うけど、これが現実なのだ。ガレスはともかく、上級魔法師は家柄もあり、格別の待遇なんだろう。 「アリアナ、ちょっとええか?」と、ガレスから声をかけられた。 「ええええっ、もしかして告白か?」 「そんなんちゃうわ~!」 「照れんでええやん! アリアナ、行ってきーな。アレクちゃんはウチが面倒見とくからな」 「あー、串焼き焼ける前には帰ってくるわ~」  どこまで行くんだろ? と、あたしは疑問に思いながらもテクテクと彼の後をついて歩く。 「殿下が呼んでるんだ。何か話があるらしいよ。まさか告白とかじゃないよね~」 「んなっ!」  これは嫌な予感しかしない。王太子と関わると前世の記憶が鮮明に蘇るようで怖いのだ。  あたしの足取りは重く、しかし役所に着いてしまった。この建物はまあまあ大きいが、古くてボロい。エントランスから通路を抜けると広間があり、王国の官僚もちらほら見受けられる。その奥に護衛兵が守る個室があった。ガレスが「お連れしました」と声をかけると、扉が開かれた。 「……そこに座れ」  どうもこの部屋は市長室っぽい。市長が座ってる高いイスに彼が腰掛けている。そして、中央には立派な木製のテーブルとソファが置かれていて、あたしはそこに座るよう促された。でも、恐れ多くて王太子を前に座る気はしなかった。 「あのお、お話とはなんでしょう?」 「アリアナ・フォン・ハートレイク。お前、僕のことを恨んでるみたいだな?」  えっ? なんで急にそんなことを!? 「な、なんのことだか……」 「僕が処刑を命じたって言えば思い出すだろ?」 「──ハッ! ま、まさか!?」 「フッ、実は僕も前世の記憶があるんだ。お前と同じようにね」  知ってたんだ! どいうことなの? 訳がわからない! と、あたしは暫く唖然としていた。 「この世を支配してる魔法師に僕らは操られていた。お前だけが二年前に戻され、転生したわけではなく、この世界全てが二年前に戻っている。そして、一人ひとりが細かく設定し直された。だが、稀にバグが発生する。僕もその一人だ。前世の記憶があるからね」  バグ? そう言えば、誰かにそう言われたことを覚えている。誰だったかな……。 「あの、あたしは完全に思い出してるわけではなくて……」 「記憶は徐々に蘇ってくる。その前に伝えておくことがある。無用な争いをしたくないんでね」 「伝えるとは何をですか?」 「先ず、お前は自身でマインドブロックを掛けている。つまり、心を読まれない。だから、その魔法師は猫を派遣した。あの猫はお前を監視するためだ」 「えっ、アレクちゃんが?」 「今、猫はいないから話をしてるんだ。それと、僕もお前ほどではないがマインドブロックをマスターしている」  なんだか理解が追いつかないけど、色々とショックだ。前世の記憶はひた隠しておいたのに、全てを知っていたなんて。それに、王太子はなぜあたしにこんな話をするの? 「アリアナ、僕と協力して支配者である魔法師をこの世から抹殺しないか?」  ……なるほど。そういうことか。 「その魔法師とは具体的に誰なんですか?」 「それは分からない。ただ、二人のうちのどちらかだと思う」 「二人?」 「マインドブロックをかけている魔法師がまだ二人いる」 「それは?」 「一人は我が兄で行方不明のハーリー・ウィリアムズ。もう一人はアレクサンダー・ブラックウッド。つまり、アレク先生だ」 「アレク先生!? それはありえません! 絶対に違います! その二択なら王太子様のお兄様に決まってます!」  あたしはこの世界の仕組みに少し触れたようで、驚きとともに怒りが湧いてきた。何かに怯えながらびくびく生きていくのはごめんだ。だからと言って、あたしを処刑した彼を信頼するには時間がかかるかもしれない。でも、ここで生きる目標が見つかったのだ。何としても王太子のお兄様を探してやる! そして、この世界を変えてやるんだ!
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