15話 悪役令嬢の友人

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15話 悪役令嬢の友人

 わたくしは微笑みのエリザベスとその取り巻きに囲まれていた。園庭には大勢の生徒たちが固唾を呑んで見守っている。 「アリアナ様、婚約破棄おめでとうございます。そして、私が正式に婚約しましたこと、ご報告いたします」 「ふん。これは薄汚い泥棒猫さん。どのような手段を使ったのかしら?」 「あらー、魔法というわけではありませんわ。貴女がしてきたことを王太子様にお話しただけのことですわ」 「わたくしがしたこと?」  エリザベスの陰には中級クラスの女子が三人隠れている。彼女たちはかすり傷ほどの怪我なのに、わざとらしく包帯を巻いて大怪我を装っていた。確かに、わたくしが手を挙げたのは事実だけど、親友のセシリアに先に手を出したのはその生徒たちだ。 「その三人がセシリアを背後から襲ったこと、ご存知なんでしょう? と、言いますか、貴女が仕向けたのでは?」 「言いがかりも酷いですわね。さすがは悪役令嬢。貴女がどんな弁解をしようとも、王太子様の判断が全てですわ」 「……そう。では、ご機嫌よう──」 「まだお話は終わってませんわよ?」 「わたくし、泥棒猫には御用がないので」 「去る前に、この娘たちに謝っていただけますか? アリアナ様」 「はあーー?」 「力づくでもね」  微笑みを浮かべたエリザベスは顔を歪め、険しい表情を見せた。彼女の瞳は冷たく光り、唇は薄く引き結ばれている。一瞬の間に彼女は邪悪な影に包まれ、その存在が恐ろしげなものへと変貌していた。  まさか、やる気なの? 魔法師が魔法を使って他人を傷つけると、追放処分を受ける可能性があることを理解してるのかしら?  ムシしましょう。──と、背を向けたが、目の前にもざーっと彼女の配下らしき男子生徒たちが現れ、行く手を阻まれた。彼らの手には魔法ステッキが握られている。 「貴女をこの場で断罪いたします!」 「許可を得てらっしゃるのかしら?」 「質問に答える必要はありませんわ」  躙り寄る生徒たちがステッキを振りかざして構えを見せた。と、その時だ。 「アリアナ様ーー!」 「セシリア!」  痛々しい右眼の眼帯と傷ついた右脚を庇いながら親友のセシリアが駆け寄ってきた。 「ちょうどいいタイミングですわね。悪役令嬢のご友人も始末しましょう」 「彼女は関係ないでしょう! セシリア、逃げて! こいつらやる気だ!」 「いいえ、闘いましょう。援護します!」 「ダメよ! 魔法を使ってはなりません!」 「──呪文魔法、エネルギーの結界! プロテクトエナジー!」 「ああっ……」  その瞬間、わたくしの体全体を包むようなエネルギーフィールドが現れた。 「ウフフ。防御とは言え、魔法を使いましたね? これは正当防衛です。やりなさい!」  男子生徒は魔法ステッキを黄金色の魔法剣に変えた。そして、冷酷極まりないまでに剣を振り抜く。その剣はセシリアの腕に容赦なく突き刺さり、血しぶきが舞い散った。 「ううっ……!」  セシリアは苦痛に顔を歪ませながら、剣に支えられるように立ちつくす。彼女の瞳には痛みと執念が交錯し、血まみれの腕からは鮮赤な血が滴り落ちていた。  この短い瞬間に、わたくしの心は固まった。怒りと決意が包み込み、闘い抜く覚悟を持ったのだ。 「氷の精霊よ、わたくしの呼びかけに応え、氷結せん! 実態魔法、アイスメイク!」  手を振りかざすと、鋭利な氷の刃が男子生徒の腕に突き刺さる。「うわっ!」と、悲鳴を上げて彼は魔法剣から手を離した。 「よくもやってくれたわね?」  振り返り、エリザベスを睨みつける。もう後戻りはできない。 「望むところよ。──岩石の力よ、私に従いなさい。転移魔法、ストーンフォース!」  魔法の祈りを捧げるエリザベス。だけど、それは無駄な努力だ。わたくしには強力なシールドがかかっている。園庭の石々が弾丸のように降り注いできても、全て跳ね返した。そして、ゆっくりとエリザベスに近づいていく。 「断罪されるべきは貴女のようね!」
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