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20話 小柄な女性剣士
あたしとリンダは特訓の日々で完全に疲れ果てていた。ガレスの厳しい基礎トレーニングに加え、電光少年との戦いでは全く歯が立たず、カラダはボロボロだ。そしてさらに新たな課題として『剣術』が追加され、テンションはますます低下していく。こんなこと、あたしたちは剣士じゃないのにねーと、愚痴を言うしかない!
「素振り一万回や。よーい!」
「いやいや、そんなんやったら気絶するやん!」
「ええから、やりや!」
「ひぇーっ」
木刀持ってゴリゴリとシゴくのは、ソフィア・ハーゼンベルクという小柄な女性剣士だ。彼女はショートブロンズヘアで可愛らしい顔立ちをしているけど、外見からは想像できないほど剣の腕前が確かで、ガレスよりも強いらしい。また、なぜか関西弁で喋るので、こっちも関西弁でお返ししてる。
ただ、彼女は悪役令嬢セシリアの親戚で唯一の友達だと聞いた。つまり、前世でいうところのあたしとセシリアの関係なのだ。歴史が繰り返されるってことなら、ソフィアはエリザベス軍団に背後から襲われる運命にある。あたしは彼女がそんな目に遭わないように何とかしなきゃいけないと思っていた。
「よし、打ち方やめや」
「はぁはぁはぁ……まだ三十回やで?」
「まぁ、許したるわ。そんな屁っ放り腰で素振りされてもな~」
「そやな~」
「ほな、結界衣着てスパーリングしよか」
「げっ! こら、もっとやばいやつや!」
防護服を着ているとはいえ、竹刀でパンパン叩かれると結構痛い。ソフィアの素早い動きと鋭い剣技の前では、ただのサンドバッグ状態でなんにも身につかない特訓と化していた。
「避けろや!命の危機やで!」そう叱咤が飛ぶけど、あたし剣士じゃないからね!
「ちょい待ち!」
リンダが急にあたしを庇うように彼女の前に立ちはだかった。このままではアレクちゃんにもダメージが及んじゃうかもしれないって主張したのだ。
「んー、頭にへばり付いてる猫やな。それは当てへんよう狙ってるけどな」
「上手く避けられへんかったら当たるやろ?」
「せやな、じゃ剥がしてや~」
こうして、アレクちゃんはリンダが世話をすることになり、再びサンドバッグとして扱われることになった。ところが──
ん? 何か頭が軽いな。そうだよね、子猫が乗っかってないから当然だよね。
「おや?」
ソフィアの素早い動きに、なんだか身体が反応している。上手く避けている自分に気づく。
「アリアナ、すごいやん!」
「いや、なんやろ?」
「何でやねん! 猫おらんかったらシャキッとしとるんやないかい!」
これはまさかの発見だった。あたしの身体能力はアレクちゃんによって制御されてたのかもしれない。王太子は監視されてるって言ってた。そんな実感はこれっぽっちもなかったけど、監視や制御の役割があったんだと、ちょっと思い始めちゃった。
「ほな、反撃してみぃや」
「なんかソフィアは楽しそうやな。やったろか、剣士ちゃうけど、試しにやってみたいわ」
金髪のあたしを思い浮かべ、竹刀を振り上げて構える。
「はいなー!」
ぶうぅぅんと力強い音を立てながら、全力で一撃を振り下ろす。
「おっと」
彼女は敏捷にそれを避けるが、竹刀の切れ味はますます増していく。竹刀を鋭く振りかざし、颯爽と斬撃を繰り出す。
「はいなー、はいなー」
「おっと……おっと。全然ちゃうやん?」
いつの間にか、お互いが打ち合いになり、竹刀がぶつかる衝撃音が絶え間なく響いた。
「ふあぁぁぁ……」
リンダが目をゴシゴシこすりながら座り込み、子猫と一緒に寝てしまった。
「はぁはぁはぁ……なぁ、いつまで続けるつもりなん?」
「あはははは。楽しすぎてずっとやりたいな。ええ練習相手がおったからな」
「いや~、もう今日はお開きってことで──」
「朝までやで!」
なぬっ、君とはやっとれんわ!
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