05話 騎士団の隊長様

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05話 騎士団の隊長様

 ウキウキ気分のリンダを尻目に、足取りが重いあたしはガレスに案内されながら上級生の待つ教室へと向かう。 「アリアナ、上級クラスにお邪魔するなんて、めっちゃドキドキやん! でも今日は王太子様やご令嬢方はお休みみたいやで~」  か、関西弁!?   リンダは気の進まないあたしを盛り上げようとしてる。それに彼女は学園の情報通で、上級生のことをよく知っている。 「ほんまかいな~」  あたしも合わせた。と同時にホッとした。王太子に会わなくて済むのはありがたい。上級生はたったの四人。つまり、今日は騎士隊長しかいないってことだ。 「よう知ってんな。殿下は王室の行事で不在やって。それ聞いて、ご令嬢二人も用事があるとかでお休みしてるんやで~」 「ガレスさんまで合わせんでええねん! って、上級生はフリーダムちゃうんか?」 「そうやで。隊長もしばらく遠征で不在やったんや。昨日から久々に登校しはったんやで~」  あたしたちは三人で顔を見合わせ、笑い合った。意外とガレスはいいやつだ。しかし、その和やかな雰囲気は教室に入った瞬間崩れ去る。 「やあ、皆さん。私がレオンハルト・ライデンシャフトだ。ようこそ」  この教室は初級クラスとは全く異なり、役員室のような雰囲気だった。そして、その男性は虎の刺繍が施されたソファーに足を組んで座り、剣を手にしている。  あたしは一瞬、我が目を疑った。 ──銀髪っ!? 銀髪の騎士だ!  銀髪のスパイラルパーマ、琥珀色の瞳……あの剣であたしを突き刺した男だ。間違いない! 「んー、この猫が殿下公認なんだ。可愛いね、ヨシヨシ」  男性は立ち上がり、その巨体に圧倒されそうになるが、あたしの頭を――いや、アレクちゃんを優しく撫でた。  帰りたい、殺される。 「君がアリアナか。うんうん、個性的だね」  むっ、個性的って言われてもモブ乙女としては、ちっとも嬉しくありません。頭に猫乗せてるもんね。というか、銀髪近いっ、こわいぞ! 「あの、レオンハルト様、私はリンダ・デイビスと申します。公爵令息であり、騎士団の隊長様にお会いできてとても光栄です」 「うん、君のことは知ってる。学科は首席で合格したんだろ? 魔力はこれからだけど、念力魔法の潜在能力が高いから期待してるよ」 「えーっ、ご存知なんですか! お恥ずかしいですう!」  リンダのメガネが視界不良になるくらい曇る。 「生徒は五十人。その一人一人に秀でた魔力や秘められた能力があるから入学したんだよ」 「ねえ、アリアナの潜在能力はなに? そういえば私、知らない」 「そうだ。君の情報だけは入らない。恐らく……」  それはきっとあたしが転生したからだ。でも、誤魔化さないと。 「あたしは、エヘへ。実は補欠入学でして。特に秀でた魔力も秘められた能力もございませんの!」 「レオンハルトさま、恐らく……の続きを?」  おい、ムシか! 「うん。理事長ら上層部の推薦だろうね。何かとてつもない能力を秘めてるのさ。事実、精霊の猫を支配してるし、とても楽しみだ」  精霊? ま、まあそういうことにしとこう。それより、強面の割には言葉遣いも柔らかくニコニコしてる彼だけど、あたしを刺し殺した男なのだ。こんな人と関わりたくない。あたしは平穏な学園生活を望んでるんだ。  さっさと用件を聞いて早く帰ろうと思った時、ガレスが間に入ってくれた。 「隊長、予定があるので時間が限られています。早速本題に入りましょう」 「あ、そうだ、そうだ。実は頼みがあるんだ」 「はい。どのようなご用件でしょうか?」 「来る体育祭に向けて、二人に協力してほしい。殿下のチームと対戦することになってね」 「えっ、体育祭!? それで、何の競技ですか?」 「ずばり、『二人三脚リレー』だ!」 「はぁ──!?」  リンダと顔を合わせ、ともにめまいがした。あたしたちは運動オンチで、こんな競技に出るのはごめんだと思った。 「レオンハルト様、ありがたいお誘いですが、ご迷惑をおかけすると思います。私たちはあまり運動が得意ではないので」 「フフフ、君たちの運動神経はリサーチ済みだよ。昨日体育の授業をここから皆で眺めていたからね」  がーん。あたしは走りながら二回もコケてしまった。ぶざまな姿を上から見られ笑われてたんだ! 「まあ、勝つつもりはないんだ。知ってる? このクラスの人間関係って?」 「はい。噂程度ですが……」  リンダはまるでクラスの一員のように状況を把握していた。十八歳になっても未だ婚約者のいない王太子殿下に、二人のご令嬢が猛烈アタックしてるらしい。二人は侯爵令嬢でライバル同士。どちらかが王太子妃になるという噂が流れている。そのため、彼女らの関係は険悪で、とても緊張してるようだ。 「私も気を遣ってね。二人には仲良くしてほしい。魔力も優れてるからね。それが、この学園の平和を保つことにつながると思ってる。だから私から提案したんだ。二人三脚であなた達三人はチームになって、私はそうだな……あの初級クラスの二人でチーム組むことにするよって」   な、何と面倒くさいことに巻き込まれてしまったのか。迷惑以外の何物でもない。 「はい。そういうことでしたら喜んで!」  ……え、えっ?  リンダがいつものように意気揚々と返事をしたけど、全力でお断りしたい。しかし、学園の平和を維持するのは大切なこと。前世で全校生徒を巻き込んで暴れ、大変な目に遭った記憶がうっすらある。目立つことはしたくないけど、協力することが必要だと感じていた。
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