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06話 まさに容姿端麗
来る体育祭に向けて、二人三脚の特訓を開始した。隊長は不在なので同じ背格好のリンダとペアを組んで。だけど──。
タッタッタッッ……コテッ……コテッ。
ガレスは顔に手を当てて、あたしとリンダのぎこちない走りに呆れかえっている。
「おいおい~、何回コケるんだ~?」
「でもぉ、あたしたち運動オンチだもん」
「そうです。足が絡まっちゃうんだもん」
グランドに倒れ込んだまま、ふてくされる。
「うん、確かに。じゃあ、気分を変えて丘のコースを歩いてみるか?」
「……はぁぁーい」
と、岩肌を剥き出しにした小高い丘に目を向けたら、意外と遠くて険しいのでさらにドン引きしてしまった。
「うぅ……キツそうよ、アリアナ~」
「うん。こんな丘を二人三脚するなんて?!」
「ねえねえ、ガレスさん! どのくらい走るのですか? 」
「ん~、丘の頂上までは四百メートルだから、その往復とグランドのトラック半周と合わせると……」
あたしたちは衝撃の事実を知ることになった。
「え、なんと、千メートルの二人三脚?!」
思わずリンダが叫び、あたしも唖然とした。
無理に決まってんじゃん!
無様な醜態を皆さんの前で晒すようなものだと、いまさらながら後悔の念に掻き立たれてしまう。
「あ、一つ言うの忘れてた。あのな……」
ガレスが何か言おうとしたその時、優雅に走る馬車の音と男子生徒の歓喜の声が園庭に響き渡った。
「むむっ、あれは誰?」
馬車から颯爽と降り立った女性は侍女を従え、こちらに向かって歩いてくる。
「エリザベス・ラングレー様! 通称、お嬢!」
ガレスが動揺して赤面になる。男子生徒たちも彼女の後ろに群がって、興奮しているようだった。
「アリアナ、あのご令嬢が上級クラスの……」
「え、あたしたちの対戦相手? 王太子を巡って争ってる一人?」
彼女は本当に綺麗だった。ミルクティーベージュのサラサラロングヘアに薄ピンク色の瞳、気品があり均整のとれた顔立ちに上品で華やかなドレス。まさに容姿端麗という言葉が似合う女性だ。
「ご機嫌よう──」
「あっ、こ、これはエリザベス様、恐縮です!」
直立不動のガレスに微笑みかけながら、あたしたちにも目を向け、
「うふふ。アリアナ様とリンダ様ね。ごめんなさい、二人三脚なんてハードな競技に付き合っていただいて──」
「いえ、とんでもございません!」
リンダのメガネはすでに曇りかけている。
この人、どこかで見たことがあるな。誰だったっけな~、思い出せないよ。きっと前世で縁があった人と思うけど、あんまりいい感じがしない!
「これ、差し入れですわ。体育祭を盛り上げてくださいますように。うふふ」
彼女からラッピングされた包みを手渡され、そこから甘い香りが漂って、すぐに大好物のクッキーだと分かった。
「こ、これは勿体ないことです! ありがたくいただきます!」
「どういたしまして。あっ、そうそう、ハンデとして貴女たちは魔法を使ってもよろしくてよ。ですからレースをヒリヒリさせてくださいね! では、ご機嫌よう──」
飛びっきりの笑顔を振りまいて彼女は去っていく。あたしはクッキーに誘われ、胸騒ぎなどすっかり忘れて「素敵な方ね~」とリンダに微笑みかけた。
「ねえ、ガレスさん。先ほどの続きは『魔法』のことですよね?」
「ああ、そうだ。お嬢からのご厚意で、レース中に魔法を使っても良いそうだ。但し、相手を攻撃するのはダメだぞ」
ほう、魔法が使える……でもどんな? 自身のパワーや瞬発力を上げるような魔法?
「あ、でもお前らにそんなスキルはないか?」
「私は念力魔法の大技にチャレンジしてみます!」
「念力の大技だと? そんな技使えるのは我が隊長くらいじゃねーか。ははは」
「だからチャレンジですって! ねえアリアナはどうするの?」
「あ、あたしは──」
金髪のあたしに託すしかない。でも不安だ。自制力がないからどうなるかわからないし、この晴れ舞台でモブ乙女がキャラとして認知されてしまわないか心配だ。それでも、ご令嬢たちの結束に役に立てるなら……立場は違うけど、どうなるか知っている以上は何とかしなければならないと思った。
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