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 茹だるほど暑い土曜の昼間。僕は慣れない都会の雑踏を一人歩いていた。  人混みも外出も苦手なインドア派がなぜ?と聞かれたら、まぁ「人生を変えるため」とでも言っておこう。大袈裟に聞こえるかもしれないが、実際、それぐらいの覚悟を持って僕は今日ここにいる。  メッセージの地図情報を頼りに大通りを右に、しばらく進んで今度は左に曲がると、都会の喧騒から通り一つ分外れたその場所に目的のカフェはあった。  中に入ると涼しい風が火照った身体を冷やしてくれる。嬉しい反面、普段絶対訪れない華やかな空間に少々気後れもする。 「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」  店員の声かけに店内をぐるりと見渡すと、一番奥の席のスーツ姿の男性が僕を見てーー正確には事前に着ていくと伝えた赤のパーカーを見てーー片手を上げた。 「いえ。連れが中で待っています」  店員に伝え足早に奥へと向かう僕を、男性は立ち上がって迎えてくれた。 「初めまして。お会いできて光栄です」  男性は渋い声でそう言った。おそらく40代ぐらいだろうか? 柔和な笑みは爽やかで、紳士的で、いかにもモテそうな雰囲気だ。差し出された名刺を見ると「恋愛アドバイザー 藍沢ヒロミ」とお洒落なフォントで書いてある。  僕はそれを大切に握りながら深々とお辞儀をした。
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