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「まずは笑顔で相槌を打つことです。『メラビアンの法則』といって、人の印象は言語情報や聴覚情報より、視覚情報によって強い影響を受けるのです。なのでつまらない話をされても、絶対に笑顔を絶やさないように」 「なるほど。つまり話の内容自体よりも聞く姿勢が大事だと?」 「それから定期的に相手の言動を真似しましょう。これは『ミラーリング』という、相手に親近感を抱かせるテクニックです」 「は、はぁ。ではやっぱり聞く姿勢の方が大事なんですね?」  藍沢さんは僕の質問には答えず続ける。 「あとはデートを切り上げるタイミングも重要です。『ツァイガルニク効果』といって、人は完了した物事より中断した物事の方が強く印象に残る性質がありますから、必ず話が盛り上がってきてさぁこれから!というタイミングで切り上げてください。  そして何より大切なのは食事の美味しいお店を選ぶことです! 美味しい物を食べながら話すと、その食べ物に対するポジティブな印象が相手の評価にも影響するのです。ちなみにこれは『ランチョンテクニック』というんですが、とにかくケチらずに良いお店を選んでください。それから…………」  怒涛の早口で捲し立てられて話が頭に入らない。必死でメモを取るが、要所要所で聞こえた単語を書き留めるのがやっとだ。  しばらくはペンと藍沢さんの口との追いかけっこが続いたが、はたと口が立ち止まった。藍沢さんはちらりと腕時計を見て「時間です」と言う。 「今日の相談はここまでですね」 「え……え? あの、結局僕はデートの時どんな話をしたら……」 「相談を延長しますか? 30分毎に2000円ですが」 「……いえ、大丈夫です」  提案を断り、今日の分の相談料を払って店を出る。  なんだかものすごく疲れた。それに、相談1時間のほとんどは藍沢さんのテクニック講座で、ついに何を話せばいいのかは分からずじまいだった。  まぁたぶん、テクニックの方が話の内容より大事ってことなんだろう。正直あまりメモできなかったけど。  とりあえず「笑顔で相槌を打つ」「美味しいお店を選ぶ」の二つだけ胸にインプットし、疲れを癒すため家路を急ぐことにした。
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