11人が本棚に入れています
本棚に追加
3
松本さんとのデート終了後、僕はすぐさま相談の予約を入れた。
「デートは上手くいきましたか? 正直聞くまでもないと思いますが、一応」
「おかげさまで、良い感じに乗り切ることができました! ありがとうございます!」
「なに? 上手くいった?」
「はい。……え? 僕何か変なこと言いましたか?」
「いえ。ただ私の見立てと違ったもので」
私の見立て、とはどういうことだろう。藍沢さんも喜んでくれるものとばかり思っていたから、不穏な空気におろおろとしてしまう。
僕の感覚では先日の初デートは大成功だった。多少のハプニングはあったが、最後に松本さんからも「楽しかったです! また行きましょう!」と言ってもらえたし。
だけどもし、それがただの社交辞令だったとしたら?
どうしよう、変な汗が出てきた。改めてあの日の松本さんの表情を思い返してみるけれど、女性経験の無い僕じゃあれが本物の言葉だったのかは判別がつかない。
とにかく、今はデートの振り返りをして藍沢さんの判断を待とう。
「前の相談でも話したように、何を話せばいいかをずっと悩んでいたんですが、結局今回のデートで僕の方から話題を振ることはほぼありませんでした」
「ほう」
「というのも、実は松本さんの方から仕事の悩みを打ち明けられまして、ほとんどの時間その相談に乗っていたんです」
「なるほど」
「最終的に解決までは至らなかったんですけど、いっぱい不満を吐き出して少しは気が楽になってくれたんじゃないかと思っています」
「ええ。それは結構ですが、」
笑顔で相槌を打っていた藍沢さんが不意に口を開く。
「今私がやっているように、ちゃんと笑顔で相槌は打ちましたか?」
「え? いや、ポジティブな内容の話ではなかったので、笑顔は違うかなぁと」
「やっぱり! ダメですよ、ちゃんと笑顔でいなきゃ! メラビアンの法則が発動しないじゃないですか!」
「えっ、す、すみません」
珍しく声を荒げた藍沢さんに反射で謝罪をする。
よく分からないが、そういうものなのだろうか? まぁその道40年の藍沢さんが言うのならそうなのだろう。
となると、松本さんの言葉はやはり社交辞令だったのではと不安になってくる。
動揺する僕に藍沢さんはさらに畳み掛ける。
最初のコメントを投稿しよう!