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「なんでお相手がお手洗いに行っている間に食事代を支払わなかったんです? デートの常識でしょう」 「だ、だって松本さんトイレ行かなかったし……というか、なんでそんなこと知ってるんですか?」 「同じ店にいたからに決まっているでしょう」 「はい!?」  どういうことかと尋ねる前に思い出す。そういえばデート直前に藍沢さんから連絡が来て、不自然にデート場所と時間を聞かれたっけ。  なるほど、あれは現場を監視するためだったのか……あ、じゃあさっきの「私の見立て」っていうのもそういう。 「全く。お相手がトイレに行きたくなるよう、私がわざわざお膳立てしてあげたのに」 「お膳立て? ってまさか!」 「ドリンクですよ。差し入れたでしょう?」  藍沢さんの言う通り、ちょうどお会計しようかというタイミングで「あちらの方からです」と大量のウーロンハイと緑茶ハイが運ばれてきたのだ。店員さんの示す方向を見るとそこには、目深に帽子を被った知らないおじさん。  松本さんは「ちょっと怖いですね」と怯えていたのだが……。 「せっかく利尿作用のあるドリンクにしたのに、なんであなたが全部飲んじゃうんですかねぇ」 「だって松本さんお酒飲めないって言うから……」 「そこを飲ませるのがあなたの仕事でしょう! 全く、最終的にあなたの方がお手洗いに行ってしまうし」 「すみません」ともう一度謝る。けど、これは僕が悪いのか? もう全然分からない。まさか恋の駆け引きがこんなに難しいものだったとは……。 「まぁでも、あなたがお手洗いに行っている間にお相手さんには私からフォローしておきましたから」 「……は? 松本さんと話したんですか?」 「『素敵な若いカップルに差し入れです』と伝えただけですよ。あれで彼女は『第三者からはカップルに見えるんだ』と意識したので、『ウィンザー効果』が働くはずです」 「あ、ありがとうございます?」  どういう効果かは分からないがとりあえず感謝の意を伝える。僕のミスで雲行きが怪しくなってしまったようだが、なんとか首の皮一枚繋がったか。
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