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君に恋なんてしたくなかった。
彼のことは、面倒で、不純で、不真面目で、どうしようもない男だと思っていた。
「佐山くん」
今日も今日とて、俺は校則違反の佐山くんに話しかける。ちゃらちゃらとした茶髪に、無駄に爽やかさを纏っている顔面、そして長い手足。
顔面やスタイルは確かにイケメンという部類に入る彼だが、残念ながら校則すら守れぬ不良である。
顔だけを重視している奴らからは、さぞかしモテてチヤホヤされているだろうが、俺からすればただの不良である。何故、校則すら守れないのだ。しかも、何度注意しても直さない。鳥頭か、お前は。いや、鳥以下か?
「あ、椿くん。今日もお疲れ様」
毎度毎度、どういうつもりなのかわからないが───おそらく皮肉かなにかだろう───お疲れ様と言ってくる佐山くん。誰のせいで疲れてると思っているのだ。そう言うなら、その乱れた制服をどうにかしろ。ワイシャツのボタンは全部上まで閉める、シャツはズボンに入れる、ネクタイは緩めない。あと、教室で飴を舐めるな。
「佐山くん、校則って知ってる?」
「流石に知ってるよ」
「じゃあ、シャツをズボンに入れろとか、ボタン閉めろとか、何度も言わせないでくれるかな?」
「あ〜……、なるほど。服装が乱れてるって言いたいのね」
大人しく、服装を整え始める物分かりの良い佐山くん。その取り巻きにいた女子たちは、ひそひそ声で「え、しつこくね?」とか「まじだるじゃん」とか言っていた。しつこくて、だるくて、悪かったな。これが風紀委員の仕事なんだわ。
(俺だって、こんな男と関わりたくねぇよ)
そんなことを思っていたら、制服が整え終わったらしく、佐山くんは、
「じゃーん、どうよ? 椿くん」
と言って、クルクルと回った。確かにシャツも入れてたしネクタイもちゃんと締めている。しかし、まだ一つ校則違反を犯している。
「それで、教室で飴を舐めるのもやめて」
「え、やめなきゃだめ?」
「うん。噛むか、教室を出て行くか」
「わかった、わかった。噛むから」
少々バツの悪そうな顔をした後、佐山くんはガリガリと棒飴を噛んだ。そして、ちゃんと食べ終わったら、律儀に「ん」と口を開けて見せてくる。
「うん、これで大丈夫。もう風紀に注意されることないよう気をつけてね」
「いやさ、校則、キツくない?」
「そんなことない」
「椿くんは厳しいなぁ」
佐山くんはそう言って笑う。俺だって厳しくしたくてやってるわけじゃねーよ。お前が大人しく校則に従えば俺も厳しくはならないんですけど? とか、今まで何度思ったかわからないことを、また思う。
この目の前の男、佐山 真がどうにかすれば全てが解決するのだ。
本当に勘弁してくれよ、心の中で弱気に呟く。そして、他の風紀を破っている奴らに注意しに行った。
佐山くんは、俺の後ろで、呑気に「じゃあね、椿くん」と手を振っていた。
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