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昔から真面目だと頑固だと、よく言われていた。
人という生き物は、あまり注意や指摘されることを好まない。大衆の言う正義というものを盾にして、自分が正しい、お前は間違っていると威張られるのは誰だって嫌なことである。
それをしているという自覚はあった。校則を守る真面目な風紀委員───裏を返せば、校則を盾にして色んな生徒にぐちぐちと文句をつける性悪な人。
嫌われても仕方がないのだと、ある程度諦めはついていた。しつこいとか、だるいとか、ウザいとか、正直もう言われ慣れている。
俺は、風紀委員として正しいことをしている。ただ、それだけが誇りだった。
「次はグラウンド?」
「そうだよ〜、走るんだって」
「何それ、しんどいんだけど」
周りにいたクラスメートの女子の話を聞き、そういえばもう行かなきゃマズイ時間か、と時計を見てグラウンドへ足を向ける。
荷物を持って、人を避けながら階段を勢いよく降りる。おそらく、まだ授業開始まで時間はあるだろうが、早め早めの行動をしたほうがいいのは確かだ。
運動神経は比較的良いほうだが、やはり誰だってやらかしてしまう時はある。階段を降りている時、ふと嫌な浮遊感を感じた。足が行き着く先に、階段がない。あれ? やばいかも。
踊り場から二歩ほどしか降りていない地点、このまま重心を前にして重力に身を預ければ大怪我ということはすぐにわかった。
手すりを探す。だめだ、遠すぎる。重心を引こうとする。待て、今更、勢いが止まるわけない。
(あ、落ちるな)
なすすべもなくそう悟る。そして、せめてもの思いで目を瞑った。大怪我だけは免れてくれ───いや、無理か。強い痛みを覚悟した。
だが、痛みはいつまで経っても来なかった。その代わりに、上方から聞き慣れたいつもの声が飛んでくる。
「うわ、大丈夫? 危なかったね」
そう声をかけられ、上を向けば、そこには片手で俺を支える不良もとい佐山くんがいた。俺の視線と佐山くんの視線がバチリと交差する。
「あ、椿くんじゃん。奇遇だね」
驚きもあり、いつも風紀を乱している男に支えられるなんて……! といった複雑な気持ちもあり、ひとまず離れようとした。しかし、混乱のあまりか、またもやバランスを崩しかける。佐山くんはその俺の行動に少し驚いた様子を見せながらも、俺をヒョイと軽々しく抱き抱えた。
(………?!)
「危なっかしいね、椿くん」
「う、え……っ?」
いや、待て。んで、抱き抱えられてんだ。しかもお姫様抱っことか、どういう状況だよ。何の少女漫画のワンシーン?
周りにいた生徒たちは、こぞってこちらを見つめていた。なにこれ、恥ずかしすぎ。俺はひとまず「ありがとう」と言って、階段の踊り場で降ろしてもらう。
佐山くんは「ん〜」と唸りながら、首を傾けていた。どした。
「……椿くんって、お礼言えるんだね」
(…………はぁ?)
その言葉を聞いた途端、俺の心の中で何かが切れる音がした。カチン、と来ることって本当にあるのか、と冷静に思う。目の前で呑気に話している男に、苛立ちが隠せない。何がお礼言えるんだねだよ。
「あれ、そういえば、次は体育だったっけ? 大変だ、間に合わ───」
「佐山くん、ありがとう。助かった。それじゃあ」
「え、あ、まって」とか、そんな声が後方から追ってくる。でも、それには、気付かないふりをした。
(ふざけるなよ、佐山 真。俺のことなんだと思ってんだ)
今度は、階段から滑り落ちてしまわないように、一段一段踏みしめて下りる。後ろから、情けない声が追ってくるはものの、足音が追いかけてくる気配はなかった。
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