四章

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「……今日、琴子さんに何があったか。物凄く聞きたいけど、言いたくないなら言わなくていい」   手のひらを、優しい力で握られる。 「僕は、琴子さんの味方だ。こうやって一緒に生活をしてきて、琴子さんがとても真面目で明るくて、頑張り屋だってことを知ってるからね」  その言葉が嬉しくて、だけどそんな清廉潔白な人間じゃないと首を振る。 「……そんな、私はいい人間じゃないんです」  言葉にしたら、我慢していた涙があふれてくる。  国治さんが見ている私は、国治さんの前では良い人でいたい私だ。  本当の私は酷い言葉も使うし、怒りに任せたら顔も歪む。  嫌だ、こわい。私を叱っていた母の顔ときっと同じだ。  重ねられた手から伝わる熱にすがりたくて、国治さんの手のひらを握る自分の手に力が入る。  国治さんは、しっかりと更に握り返してくれた。 「でも、僕はそういう琴子さんもいいと思うんだ。あんな成り行きで僕の計画に琴子さんを巻き込んだけど……琴子さんが奥さんに、家族になってくれて嬉しい」  涙でくちゃくちゃになった私の顔をのぞき込んで、国治さんが照れた顔で微笑む。  はじめて、そんな顔を見た。  『いまだけ』『一時だけ』ときっとあえて言わずに、嬉しいと言ってくれた。  私は、国治さんの家族なんだ。  ひとりじゃないんだ。  例えあと少しで解除する関係でも、なにも残らない訳じゃないんだ。  そう確信できたら、今日あったことも話ができる。  私は国治さんに何度もありがとうと伝えて、それから今日起きた全ての話をした。  
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