95人が本棚に入れています
本棚に追加
「……今日、琴子さんに何があったか。物凄く聞きたいけど、言いたくないなら言わなくていい」
手のひらを、優しい力で握られる。
「僕は、琴子さんの味方だ。こうやって一緒に生活をしてきて、琴子さんがとても真面目で明るくて、頑張り屋だってことを知ってるからね」
その言葉が嬉しくて、だけどそんな清廉潔白な人間じゃないと首を振る。
「……そんな、私はいい人間じゃないんです」
言葉にしたら、我慢していた涙があふれてくる。
国治さんが見ている私は、国治さんの前では良い人でいたい私だ。
本当の私は酷い言葉も使うし、怒りに任せたら顔も歪む。
嫌だ、こわい。私を叱っていた母の顔ときっと同じだ。
重ねられた手から伝わる熱にすがりたくて、国治さんの手のひらを握る自分の手に力が入る。
国治さんは、しっかりと更に握り返してくれた。
「でも、僕はそういう琴子さんもいいと思うんだ。あんな成り行きで僕の計画に琴子さんを巻き込んだけど……琴子さんが奥さんに、家族になってくれて嬉しい」
涙でくちゃくちゃになった私の顔をのぞき込んで、国治さんが照れた顔で微笑む。
はじめて、そんな顔を見た。
『いまだけ』『一時だけ』ときっとあえて言わずに、嬉しいと言ってくれた。
私は、国治さんの家族なんだ。
ひとりじゃないんだ。
例えあと少しで解除する関係でも、なにも残らない訳じゃないんだ。
そう確信できたら、今日あったことも話ができる。
私は国治さんに何度もありがとうと伝えて、それから今日起きた全ての話をした。
最初のコメントを投稿しよう!