一章

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夕方になると、神楽坂さんがやってきた。  肌触りの良さそうなシャツに、体型に合った綺麗めなジーンズ姿に目が釘付けになる。  玄関先で挨拶を交しながら、私服について声を掛けた。 「わ、神楽坂さんの私服姿って初めて見ました」 「普段ホテルではスーツですからね、私服は動きやすいものが好きなんです。高梨さんみたいな若い人から見て、変なところがあったら教えて下さい」 「変なところなんて全くないです! 似合っています」  実際シャツもジーンズもとても似合っているし、見て分かる良い素材からしてなかなかのお値段なのを察する。髪だっていつもより自然な感じで素敵だ。 「私も、もっとちゃんとした服でお迎えすれば良かったです」  そういう私の格好は、ごく普通のカットソーにジーンズだった。  考えなかった訳じゃない。もっとおしゃれした方が良いんじゃないかって。  でも、どこか外出する訳でもないのに、なんて考えたら無難ないつも通りの部屋に居る格好になってしまった。 「高梨さんも、お家だとリラックスした感じなんですね」 「そうなんです。神楽坂さんをお迎えするのにいろいろ悩んだのですが……」 「いえ、これから一緒に暮らすのですから、あまり気を張らないで下さい」 「えっ、あ、はい」  落ち着いた声、表情で言われて、私だけ意識してるみたい。  赤くなった顔を隠すようにして、慌てて玄関先からなかへ入ってもらった。  
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