一章

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じっと私の顔を神楽坂さんが見るものだから、おかしくなってしまった。 「もっと可愛い女性に声を掛ければ良かったとか、考えてます?」  「……四十路のおじさんが、こんな若くて優しい女性と結婚出来るなんて罰が当たりそうで」 「若さに価値があるとしたら、積み重ねた年月にも同じ価値があると私は思っています。形だけの結婚ですが、いろいろ勉強させて下さい」 「高梨さんのほうが、僕よりずっと大人だ」  お互いにまた、契約の確認完了とばかりに頭を下げあった。    神楽坂さんは、私の為に五百万円も用意していた。  私は三百万円を受け取り残りを返すと、ならこれで結婚指輪を買いに行こうと言ってくれた。    新緑の眩しい五月のある日。  翌月のジューンブライドを待たずに、私たちは契約結婚をした。
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