二章

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二章

僕は子供の頃から、表情が乏しかった。  家族アルバムのどのページのどの年齢の自分も、なんだかムスッとしているか、無表情だ。  死んだ父親はカメラと家族が好きだったので、僕がどんな顔をしていても楽しそうに撮っていた。  撮られるのが嫌いではなかったし、決して楽しくなかった訳じゃない。  ただ、それを表に出すのがとても難しかった。  そんな僕は、成長してもどこか周りと違っていた。  学生時代の恋も経験せず、告白をされても心が震えることもなかった。  『好き』と言われても、そうなのかとしか思えない。  ごめんなさい、すみませんと録音された音声のように繰り返す。  僕の前で、何人もの女の子が泣くのを見ていた。  僕は他人を愛せないし、愛される感覚がわからない。  気持ち悪いとは思わないけど、同じ『愛』では返せない。  人としてなにをしたら喜ぶかは分かるが、そこに湧き出すような感情がない。  自分は酷い人間なんだと、考えるようになった。  家族とは違う、全く異なったDNAから出来上がった人間をどう好ましく感じるんだろう。  ……そもそも、僕が家族にだけ持っている感情も愛なのかどうか、時々わからなくなった。  結婚をしていないことが仕事を円滑に回せなくなるほど支障が出ていた。  妻が居ないという事実を何度も『おかしい』と指摘されているようで、心に鉛の重しが積み重なっていく。  形だけでも、一時的に結婚できれば解放されるのか?  離婚して「自分には結婚は向いていなかった。彼女には申し訳ないことをした」と言えば、もう黙ってくれるだろうか?  生活の保証は十分にできるが、愛せない。  だから僕に好意を持っていない人がいい。  この結婚を仕事として考えて、報酬をきちんと受け取ってくれる人。    そんな馬鹿げたことを真剣に考えていたある日、妹に大金を持ち逃げされた高梨さんを見つけた。  
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