二章

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高梨さん。結婚をしたので形式上、琴子さんと呼ぶ。  婚姻届を出す前に、お互いの親へ挨拶を済ませた。  離婚した時の親や周辺に与えるダメージを最小限にするため、結婚式はまだ挙げないと伝える。  琴子さんのご両親は娘の突然の結婚報告に驚いていたが、いまだに見付からない妹さんのことで沈んでいた気持ちが浮上したらしい。  妹にも知らせたかった、ここに妹が居たら。  そう繰り返すのを見て、琴子さんが家を出た理由を察した。  僕の母は、若い琴子さんに驚いて何度も「こんなに歳上でいいの?」なんて聞いている。  琴子さんは笑顔で「国治さんを、職場でもとても頼りにしていたんですよ」と、答えてくれるので助かった。  こういう時、同じ職場だったのは良かった。そうで無かったら、母は僕が若い女の子をだまくらかしたんじゃないかと心配しただろう。  母はお菓子作りの教室へ通い始めたばかりだったので、琴子さんがパティシエールなのも嬉しかったらしい。  教室で先生に聞けなかったことなどを、琴子さんに真剣に聞いていた。あげくに琴子さんを「先生」と呼び、一生懸命ノートに教わったことを書きとっている。  その、皺の目立ち始めた母の小さな手が必死に動くのを見て、罪悪感で胸が締め上げられた。  帰り道。  僕が運転する助手席で、琴子さんはずっと外を眺めていた。  そうして「お義母さん、良い方でした」とぽつりとこぼした。
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