二章

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一年間の契約結婚をするにあたり、いくつかの確認をした。  二人で同じ家に住む。  家事は分担する。  生活費の六割は僕が出し、残りの三割を琴子さんにお願いした。  琴子さんは製菓学校時代の友人が開いたケーキ店で、ホテルを退職後に手伝いしながら経営を学ぶことが決まっていたという。  ここまでは普通の夫婦のようだ。  寝室問題は、部屋数のあるマンションを借りることで解決した。  知り合いの不動産屋に新居が必要だと話をすると、張り切って紹介してくれた新築だ。  琴子さんから返された二百万で結婚指輪を買い、残りを新居の敷金礼金に充てた。  琴子さんはリビングで自分は寝るので、わざわざ一年間の為に広い部屋を借りなくてもいいと言う。  だけど、仮にも琴子さんの夫になったからには妻の暮らしやすい住居を提供する義務がある。 「寝室もですが、新しい部屋はキッチンが広いです。パティシエールは、自宅で試作などしたりしないのですか? 広く使いやすいと不動産屋からも太鼓判を押されています」  正直わからない。自分ではなく試作は職場のみでするかもしれないけれど。 「単純に、キッチンが広いのは嬉しいです。食事作り、頑張りますね」  琴子さんは、これはもう諦めるしかないという顔をする。 「では、僕は掃除を頑張ります。週に一度は水周りを掃除してくれる業者を入れましょう。引越し作業が大変ですが、宜しくお願いします。手伝いますので、言ってください」 「私は大丈夫です、心配なのは神楽坂さんです。忙しいのに、いつ引越しの荷造りするんですか?」  確かに。だけど元々そんなに家具も無いし、いっそ処分して新しく買い換えた方が作業的に楽かもしれない。  うん。そうしよう。それがいい。 「……大丈夫です。妙案が浮かびまして」 「いや、大丈夫じゃない雰囲気がひしひししますが?」  そう笑って口元をおさえる、琴子さんの薬指でプラチナの結婚指輪がきらりと光った。  
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