二章

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婚姻届を提出し、新居にも引越しが済んだ。  お互いに家族以外と暮らしたことが無いとわかり、少しの間は遠慮したり譲り合う一ヶ月目だ。  その中でもお互いのテリトリーみたいなものが何となくできあがり、そこを過度に侵食しない様にと気をつける。  キッチンの棚には琴子さんが持ってきた製菓に使うであろう器具が沢山あり、僕はそれには触らない。  リビングには僕が勉強に使うホテル業界の専門誌を並べた小ぶりな本棚があり、琴子さんに読んでもいいと声を掛けたけれど眺めているのは見たことがない。  いざ始まった期間限定の同居生活は、意外にも穏やかだ。  それは琴子さんが僕にとても気を使ってくれているからで、そのおかげで僕は自分の中に他人を受け入れるスペースがあるかもしれないことに気づいた。  朝、先に家を出るのは琴子さん。  ケーキ店の朝は早く、僕が起き出す頃にはもう出勤するのに支度を済ませている。 「あ、おはようございます」  寝起きの姿を晒すのにもだいぶ慣れてきて、  リビングで挨拶を交わすのが日課になっている。
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