四章

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その夜、私は国治さんが帰ってきても今日妹に会ったことは言えないでいた。  お金を返して貰える可能性はないとわかっていたのに、妹からの謝罪を期待していたのかもしれない。  のこのこ会いにいって、あのザマだった。  結果はやはりというか、謝罪さえもなく、酷いとまで言われた。  国治さんとの生活が心地よくてまるくなった心を、自分が吐いた荒い言葉で削ぎおとしてギザギザにしてしまった。  荒く酷い言葉は嫌いだ。だから使わないで生きているのに、今日は始めから我慢がきかなかった。  妹の言葉を思い出して、気持ちがイラつき落ち着かない。  ここが私の安心できる場所だから、涙が自然に出る。  国治さんは職業柄、人の表情や変化を察するのに長けている。  私がいくらごまかしたって、きっとすぐに見抜かれてしまうだろう。  だからせめて今夜。今夜さえ乗り越えれば、明日には多少落ち着くだろうから。  夕飯の支度をし、私は早々に調子が良くないと嘘をついて自分の寝室にこもった。  スマホには、妹からの着信とメッセージが並ぶ。  メッセージは目を通さずに消して、妹の番号を着信拒否にしたら大きな溜息が出た。  
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