四章

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「具合はどう?」  国治さんは部屋に入ろうとはせずに、私の具合を聞いてくれた。  明るい廊下とは違って、真っ暗な私の寝室。メイクも落とさず、もしかしたら目元は赤いかもしれない。  下を向いて顔を見せないようにしようとしたのに、優しい声色に国治さんの顔を見てしまった。  大丈夫です。心配かけてしまってごめんなさい。  そう言葉にしたくても、なかなか出てこない。  何も言わずにいる私に、国治さんは「中に入ってもいい?」と聞いてきた。  私は無言で頷く。  寝室の明かりはつけないまま、ドアを開けて明り取りにした。  もう誤魔化すことは難しいし、何かあったことを隠す気力が無くなってしまった。  無気力にベッドに腰かけた私に、「隣、ごめんね」と国治さんが座った。  ギシッと、ベッドが鈍く軋む。  しばし沈黙の時間があって、私はぼんやりと開いたドアの向こうの廊下を眺めていた。 「琴子さん、ここに手、乗せられる?」  国治さんは自分の大きな手のひらを、私の膝の上で浮かすように広げた。  私は少し迷って、そうっと手のひらを重ねた。私たちが形式上でも夫婦になってから、初めて手を繋いでいる。  国治さんの手のひらは、私よりも体温が高くて温かい。  
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