一章

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話す途中、何度も言葉に詰まり沈黙の時間ができてしまった。  それでも神楽坂さんは、私を急かすことなく耳を傾けてくれた。  小さな頃からの私たち姉妹の違い、追いかけていた夢、その為にバイトを掛け持ちしお金を貯めながら製菓学校へ通ったこと。  『sakazaki』にパティシエと就職できて、沢山の勉強をさせて貰ったこと。  タイミング的に今だと決め、自分の店を立ち上がる決意をした。そうしてテナント探しや準備の為に退職を決意して。  ……今朝、そのお店の基盤となる開店資金三百万円を全て妹に持ち逃げされてしまった。  「妹から、ごめんねってメッセージが届いたんです。それでもの凄く嫌な予感がして、慌てて銀行のアプリで残高の確認をしました」 「……うん」 「それで、小銭を残して全て預金が下ろされていたのが分かりました。私バカみたいに、何度も何度も確認しちゃって……」  ここで、また涙があふれてしまう。神楽坂さんに身内の手癖の悪さを晒して、自分のマヌケさまで……そう考えたから、急に恥ずかしくなってしまった。 「それは、大変な目に合いましたね。身内であろうと、警察に相談した方がいいかもしれません。一人で行くのが難しいなら、僕も付き添います」 「警察は……だめです。両親を妹のことで、これ以上心配かけたくありません。それに、こんな大金を失ったと知ったら、私を手元に戻そうとするかもしれないので」  贔屓、とは言いたくないけれど、やはりどうしても妹のほうが昔から目をかけて貰っていた。  『お姉ちゃんは大丈夫だよね』と言い聞かせられてきた私は、家から逃げ出すように都内の製菓学校を選んで上京した。  これで、妹と自分を比べないで済む。  親からの愛情を、比べないで済むんだ。  一人暮らしを始めた開放感と何とも言葉に出来ない寂しさは、いまでも忘れられないでいる。  
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