一章

6/14
前へ
/48ページ
次へ
鳩が豆鉄砲食らった……なんて言葉があるけれど、私には頭の上から隕石でも直撃したような衝撃だった。  そこから更に、新たな宇宙が発生しそう。  三百万で、私を一年間を買うなんて。  それに、契約結婚しようとも聞こえた。 「丁度明日は休みなので、三百万揃えて前払いでお支払いできます」  はっきりとした声で、ぽかんとしている私に語りかける。  どうやら、さっきのは聞き間違えでは無いらしい。  でもそれって、もしかして。 「あの、それって……愛人契約とかの話ですか?あ、でも結婚?とかって……?」  口に出してみると、更に自分が混乱しているのがわかった。それに、平凡な私に神楽坂さんが愛人契約を申し出るなんて、思い上がりだと顔が熱くなる。 「いえ、愛人ではなく妻です」 「つま」  語彙力も『妻』というワードで砕けてしまった。 「愛人契約ではなく、本当に婚姻関係を結びたいのです。婚姻届を提出して」  神楽坂さんがあまりにも堂々と話をするので、落ち込む気持ちが一旦遠くに飛んでいってしまった。 「あの……もし大丈夫なら、神楽坂さんが結婚したい理由を教えて貰えませんか? ていうか、独身だったんですね。それから私のことを……す、好きって訳ではないんですよね?」  かなりすごいことを聞いてる自覚がある。  緊張でひりつく喉を潤すのに、端に置きっぱなしになっていたグラスの水を一気に煽った。  指先がびしゃびしゃになるほど、透き通ったブラウン色のグラスは汗をかいていた。  
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加