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しばらくして、どんどんと壊れんばかりの勢いで扉を叩く音が聞こえてきた。
響玄はごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと戸を開く。
「住人の調査をする。主人はお前か」
「はあ、左様でございます。軍の方が何故このような辺鄙な場所に」
「宋睿陛下が有翼人根絶をお望みである。有翼人はいるか」
「ここには私と病気の娘だけ。二人とも人間でございます」
響玄は何も分からないふりをして、布団に横たわる美星をそっと抱き上げた。
だがそこに羽は無かった。人間と同じ服を着ていて羽を出す穴も無い。
兵はつまらなそうにふんと息を吐くと、くるりと背を向け外へと向かった。
「人間なら良い。この近辺に有翼人はいるか」
「ここは別荘地でして。定住している者はおりませんよ」
「そうか。見かけたら宮廷へ連れて来い。隠せば共犯として死罪となる」
「承知致しました」
そうして兵は家を出て次の獲物を狩りに向かった。すぐに悲鳴が聞こえて来たが、美星はそれをぼんやりと聞くしかできなかった。
響玄はしばらく窓から外の様子を窺っていて、少しすると安堵したようにため息を吐き美星の傍に腰を下ろした。
「大丈夫か、美星」
「布団ってこんなに薄いものだったのね……」
先程響玄は美星に刃を向けた。切ったのは美星ではなく美星の羽だ。
寝にくくて邪魔に思うこと多かったのに風通しの良い背が物悲しい。
「痛くないわ。本当にこれっぽっちも神経が通っていないのね……」
有翼人の羽は一見すると鳥の羽だがそれとは性質が全く違う。触れられても感覚は無く、飛ぶどころか動かす事もできない。
しかしそれは切り落としたとて痛みが無いということだ。だから響玄は羽を切り落とし人間に擬態させた。
だが何も影響が無いわけではない。美星の視界はぐるりと周り、響玄の腕の中に倒れ込んだ。
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