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「動いてはいけない。有翼人の羽は心が具現化したもの。切り落とせば心――精神を失うと同意義」
絶対数が少なく、迫害を恐れて隠れ住む有翼人は生態が解明されていない。羽が生えた経緯も構造も不明だが、ただ一つ分かっていることがあった。
有翼人の羽は心と紐づいている。切り落としても肉体的な痛みはないが、その痛みは精神に現れるのだ。
「大丈夫だ。必ず治してやる。だから今は病に臥せっている事にする。いいな」
「はい……」
視界が定まらず内臓が掻き回されているような不快感。美星は高熱で動くこともできなくなっていった。
けれどそんなことは苦しみには思わなかった。
(小鈴……)
最期に見た小鈴は苦しそうな顔をしていたけれど、悲鳴をあげる間もなく地に伏した。もう二度とその声を聴くことはできない。
小鈴との最後の会話は、あまりにも普通の日常だったから記憶にすら残っていない。こういう時になって初めてその些細な日常がどれほど大切だったかを知る。
(……殺してやる。宋睿も宮廷も全て殺してやる!)
美星は宮廷への復讐を誓った。熱が下がり動けるようになったら宮廷へ乗り込んでやろうと決意した。
しかしこの翌日、響玄から告げられた言葉に驚き目を見開いた。
「今なんて言ったの?」
「陛下が解放軍を名乗る者達に討たれ亡くなった。平和になったぞ」
「平和……?」
有翼人狩りが始まってわずか三日後、蛍宮は平穏を取り戻していた。
その中心にいたのは解放軍を率いた兎獣人の天藍(てんらん)という青年だった。兎でありながら獅子獣人の宋睿と鷹獣人の皇后、鷹獣人の皇太子を討った彼は新たな皇太子として宮廷を率いることになったのだという。
「そうだ。天藍様は全種族平等を掲げているという。人間も獣人も有翼人も、境界の無い平和な国にすると宣言なさった」
激動の三日間は『蛍宮解放戦争』と称された。
しかし戦争と言うにはあまりにも短く、奇跡的に死者は一人もいなかったという。
無駄死にした有翼人を除いては。
「……平和って何?」
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