第一話 美星の決意(一)

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 宋睿は有翼人を苦しめる目的の政策が多かった。  有翼人根絶と人間の人口減少が獣人のためになると言い、迫害政策の資金を国民の税収で賄ったのだ。  迫害政策は獣人国民も推奨していた。だが過剰に続く増税は獣人の生活も苦しめ、多くの店が倒産し職を失い、貧困で死亡者が出始めた。  獣人からの指示は低迷どころか反乱すら引き起こし、宋睿があっけなく討たれたのも獣人国民を敵に回したからだとも言われている。だから天藍は弑逆者ではなく英雄と讃えられたのだ。  当然税金による国民の苦しみを知っていた天藍は皇太子即位と同時に大幅な減税を行った。  おかげで国民の生活は潤い消費が増え、貯蓄増に比例して国民全種族からの支持率はうなぎ上りを続けた。 「天藍様に代わって本当によかったですよ。税は下がったし補助金もある」 「そうね。天一も前以上の黒字だし。倍になってるわ」 「それは響玄様の手腕でらっしゃいますよ。終戦直後でまだどこも不安定なのに客層を転換した潔さは素晴らしいことです」  減税をしたと言っても、消費者の需要と販売者の供給が一致しなければ経済は回らない。  だが需要と供給なんて国民が落ち着いてからでなければ明確にはならないし、明確にならなければ経営者も方針転換などできはしない。需要の無い提供だった場合倒産の危機に陥るからだ。  そんな状況下で響玄はいち早く販売対象を変えた。これまで天一の顧客は人間の富裕層が主だったが、響玄は獣人の生活必需品を新たな収入軸にすると経営方針を変えた。それも獣種ごとに提供を変えた。肉食獣人には肉類、草食獣人には野菜や果物といった『無いと生きていけない』商品に注力するとこれが大正解で、瞬く間に顧客が増えたのだ。  今では響玄一人では到底回らず、従業員も一人だけだったのが今は十人もいる。  美星に専属の使用人も付けてくれて、気が付けばお嬢様と呼ばれるようになっていた。  美星は数か月で元気を取り戻し、余裕ができてくると命を繋いでくれた父の助けになりたいと思い始め接客や金銭の管理など店の業務を始めた。  人間である父と同じを日常を過ごすことは人間擬態する美星の新たな日常となり心を落ち着かせてくれた。
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