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「――どうしたの。その様は」  魁と連れだって教室に入るなり、つかつか近付いてきたのは土屋(つちや)宥子(ゆうこ)だった。泥(まみ)れの捨太郎の制服を、非常に険しい顔で見咎めているのは、初代学級委員の使命感に燃えているからなのか。  おはようと言っては水を差すようなので、捨太郎はおずおずと回答するしかない。 「表で転んでしまって」 「そりゃそうでしょう。そういうことが聞きたいのではないの」 「ええっと、じゃあ、僕は何を答えたら……?」 「わからない? を訊いているのだけど」  気付けば、教室中の生徒が固唾を呑んでこちらを注視していた。わけもわからないまま、捨太郎は湿った尻から全身が冷たくなっていくようだ。落ち着かなければとわかっていながら、心臓までもが激しく脈打ち始めてしまう。  何も言えなくなった張本人には構わず、宥子はキッとして魁を見上げた。 「あなたがやったんじゃない?」 「……あ?」  顔中傷だらけの大きな少年。宥子の毅然とした態度に導かれるようにして、疑念、失望、または義憤や怯懦(きょうだ)を帯びた眼差しが、いくつも彼に突き刺さっていく。  捨太郎はもうすっかり顔色をなくしてしまった。それに対し、魁は全く常の通りだった。特に意味もなく斜め上を眺めたあと、至極どうでもよさそうに宥子を見下ろして、 「ああ、そうだな」 「やっぱり……!」  宥子の華奢な肩が怒り、きっちりふたつに結わえた髪さえ燃え上がるようになる。  そんな! なぜ? やめて、違うだろと、口をぱくぱくさせて(すが)る捨太郎を、彼はきょとんとして両下膊(かはく)で受け止めた。
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