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「どうしたポカポカ。腹でも痛いのか?」 「ふざけないで! 彼の具合が悪いとしたら、それはあなたが突き飛ばしたりしたからでしょう?」 「ああ、そうか」 「いい、蜂矢魁君。この子を虐めるのは絶対にやめなさい。そんな図体して、いくら暴力を振るったって、私がいる限り、このクラスで大きい顔なんかさせないから。悔しかったら、捨太郎みたいに猛勉強していい成績を取ってみなさいよね!」 「は? なんだポカポカ、お前頭いいのか。かっけぇじゃん」  それは――本当に不意なことだった。  今までずっと無表情だった魁が、真っ白な歯をこぼし、にこっと目まで細めて捨太郎を見たのだ。 「……!」  その瞬間、教室の冷たい緊張感が一挙に溶けた。女子生徒のほとんど、下手をしたら男子までもが、ぽーっと敵意を忘れて彼の笑顔を見つめているではないか。  なんの嘘も邪気もないこの表情には、さすがの宥子も鼻白んだらしい。睨む目こそやめないが、ぐっと顎が引いたようだ。  捨太郎は藻掻き、喘ぎ、息を吸い込んだ。そして、どうにか水面から顔を出した者みたいに声を上げた。 「――酷い誤解だ! 僕、よそ見していて、それで蜂矢君にぶつかって転んだんだ。彼は悪くない、それどころか、謝って起こしてさえくれたよ。違うのに……違うのに、宥子ちゃん!」 「ちょっ……」  途端に宥子は、セーラー服の襟から上が真っ赤になった。 「ちょっと、捨太郎! もうちゃん付けで呼んだりしないでって言ったじゃない……私達、中学生になったんだから……!」 「宥子ちゃん、宥子ちゃん、違うんだよぉ! 蜂矢君はちょっと不思議だけど、悪い人じゃないんだ。わかってくれよぉ」 「ああん、もう、相変わらず泣き虫……っ。わかった、わかったから! いやな言いがかりを付けてごめんなさい、蜂矢君、この通り……!」
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