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「ねえ蜂矢君。もしかして、定由先生も鬼瓦の人だったりする?」
「ニジマスのおっさんか。よく魚焼いて食わせてくれる。ヤマメだのイワナだの釣ってくるぜと出かけていって、いつもニジマスばっかり抱えて帰ってくる」
「そうなんだ。しかし、どうしてあそこで数学教師なんてやっているのだろうね。着任したのはこの春らしいけれど」
「俺が学校で問題起こさねぇようにって、親分が付けた監視役だな」
「ええっ」
「今、教師なんか全然足りてねぇらしいから。あいつが本当に教師の資格持ってんのかは怪しいもんだが、まあ、俺が卒業するまで保てばいいんだろ。保たねぇなら俺が退学すればいいだけだしな」
「そうかぁ。定由先生の授業、とても明解だから、どうにか首にならないでほしいけれど……。それに蜂矢君も、あと三年、義務教育というやつだから退学はできないよ。せっかくだし、卒業まで前向きにがんばってみないか?」
「俺、勉強より親分の手伝いがしてぇんだよなぁ……」
「でも、その親分さんが学校行きなって言ったんじゃないの?」
「ああ……。『行きな』じゃなくて、『三年くらい行ったほうがいいんじゃない』っつってたけど。『学校がちょうど三年延長したのなら』って」
「なにやら具体的だね。けどまあ、中学卒業まではってことか」
「どうだか? 単に俺が三年学校行ってなかったからじゃねぇの。十歳で家出て親分とこ来ちゃったし、怪我だのなんだのもあったからな。でもまあ、そうだった、親分にそう言われたんだったわ。じゃあ行ったほうがいいか……」
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