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「うん! なんなら、明日の登校から待ち合わせて行かないか? ……あ、だめだ。僕ら、家がまるっきり反対方向だったね」
「別に待ち合わせなくたって、どうせ学校で会うんだから変わんねぇんじゃねぇの」
「まあそうだけど、でもさ……。ほら、土屋宥子ちゃんいるだろう?」
「誰だそれ」
「えっ。さっき、教室で僕らに声かけてきた女の子だよ。髪をふたつ縛りにした、学級委員の」
「ああ」
「彼女も土圭町なんだ。――尋常小学校の頃、僕、歳の近い兄や姉にはあんまり構ってもらえなくて。向こうにも友達付き合いってものがあるからね。でも代わりに宥子ちゃんが、毎朝一緒に登校してくれてさ……それがとても楽しかったんだよ。僕が柊木町に行ってからは、なんとなく疎遠になってしまったのだけれど……」
そこまで話した時、捨太郎は急に思い出した。洗濯板の上、べっちゃりのぺったんこになっている衣服を見下ろしつつ、ふと手も止まってしまう。
そうだ。今、こうして泥を濯ぎ落としている制服であるけれども、そもそも捨太郎が転んだのは……あの森に、魁がひとり佇んでいたために生じた出来事だ。彼は反対方向から登校してくるのだから、あんな薄気味悪いところにわざわざ入ってくる必要もないはずなのに……。
「あ、れ――?」
突然、捨太郎の生っ白い背筋を、なにやら爪で撫でたような悪寒が這い上がってきた。
風呂場とはいえ、洗濯なぞに湯を使うでもなし、少し体が冷えてしまったのだろうか。
天井から――ピトン――ピトン――と水滴が垂れ落ちてくる。
それらが全て、なぜだか後頭部に集中して吸い込まれていく感覚。脳が活動熱を奪われ、冴え冴えとぼんやりし始めて、ますます体がブルッとなっていくようだ。
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