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その時、
「ポカポカ」
気持ちを引き戻すようにそう呼ばれた。
はっとして顎を上げれば、裸の魁が真顔で見つめている。捨太郎の肩口の後ろあたりを。
「――えっ。あ、なに? 蜂矢君」
「……こっちは洗い終わったぜ。お前はまだ時間かかるか」
「あっ……。ああ、ありがとう! そうだね、僕はもうちょっとやってかないとだ」
「じゃあ、俺は先に部屋行ってるから、終わったら来い。それまでに……少しくらいは片付けてみるわ……」
「掃除でもするの? 別に気を遣わなくてもいいのに。……あ。でもそういえば僕、服を全部洗ってしまったけれど、一体どういう格好で出て行ったらいいのかなぁ……?」
「はぁん? ――だは、だはは。だっははははは……」
「ええ。わ、笑わないでよ。結構な死活問題だよ」
「だはははははは、だはははははは」
それは、教室で女子生徒達をときめかせたあの笑顔ではなかった。魁は、口も瞳孔もカッと開いて、まるで射止めるように捨太郎の頭上を凝視し、腹の底からびりびりと笑い放っている。
「だはははははは、だはははははは――」
強く空気を震わせたまま、肌に付着した泡をざっと流して仁王立ちになった。
同い年とはとても思えない屈強な体を拭き、制服を着直す。その間も、やるせない裸の捨太郎に目を注ぎ続け、脱衣所を出ていくぎりぎりまで笑い声を響かせていた。
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